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無線機で他人の「家庭用コードレス電話機」の会話が聴ける…これって法的に問題なし?
写真はイメージです。

無線機で他人の「家庭用コードレス電話機」の会話が聴ける…これって法的に問題なし?

アマチュア無線が趣味の大学生・Mさん(男性、20歳)は最近、とある雑誌を読んでいて、驚愕したという。Mさんが持っている無線機で、家庭用のコードレス電話機の会話を聴くことができるというのだ。

「無線機を使い、国内外の同好の士とたわいない話をするのが好きなんですが、その記事によれば、コードレス電話機を使っている家の会話なら、簡単に聴けてしまうと書かれていました」

Mさんによれば、無線機が受信できる周波数にコードレス電話機が使う電波の周波数も入っている。ちなみに無線で聴けるのは、古いアナログ型のもので、最新のデジタルコードレス電話機は傍受できない。

「第3級アマチュア無線技士の資格を取るために無線について勉強していたので、その周波数にダイヤルを合わせれば会話が聴こえてしまうことは確かに想像できました」。その記事によると平地でも100m、マンションの上階なら数キロメートルも電波が飛ぶからだ。

ただ、「モラルの面から、その一線を越えてはいけないだろうと思って、やっていませんでした。そういった悪意を持って用いられる可能性のある技術が、雑誌の記事として公表されていることに不安を感じます」と話す。

プライベートな会話を他人に聴かれているとしたら快いものではない。コードレス電話のようなプライベートな通信を傍受することは罪に問われないのだろうか。また、会話を聴かれてしまった場合はどのような法的手段が取れるのだろうか。電波法に詳しい高橋郁夫弁護士に聞いた。

●傍受のみでは、通信の秘密の侵害にならない

電波法は通信の傍受について、どう定めているのか。

「アナログ式のコードレス電話器は、その親機と子機の通信を傍受すると、通信の内容を聞くことができてしまいます。このような場合に、この通信を傍受することが罪に問われないかどうかを考えるのに関して、電波法で定める通信の秘密の条文をみてみましょう。

電波法59条は、『何人も法律に別段の定めがある場合を除くほか、特定の相手方に対して行われる無線通信(略)を傍受してその存在若しくは内容を漏らし、又はこれを窃用してはならない』とされています。そして、同法109条で、『無線局の取扱中に係る無線通信の秘密を漏らし、又は窃用した者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する』とされています」

家庭用のコードレス電話機の会話を聴いたら、法的に問題があるのか。

「この条文の解釈について、単なる傍受のみが、通信の秘密を侵害する行為に該当するかという問題があります。条文を見る限り、通信の存在もしくは内容を漏らす行為、もしくは、窃用する行為(窃用とは、自己または他人の利益のために利用する行為をいいます)が通信の秘密を侵害する行為に該当します。そのため、傍受のみでは、通信の秘密の侵害になるとは考えられていません。

例えば、アマチュア無線で、通信の相手方を探そうと『CQ、CQ』と呼びかけている通信を聞く行為が、通信の秘密を侵害しているとは考えられません。従って、電波法の解釈からは、今回のケースの行為は、通信の秘密を侵害しているとは考えられません」

無線機が受信できるものを聴くだけでは、侵害したことにはならない。

「はい。ただ、暗号がかかっている通信について、それを解読して、存在もしく内容を漏らす行為もしくは窃用する行為は、処罰されうるということです(電波法109条の2)。デジタル式のコードレス電話や、暗号のかかっている無線LANについては、この条文が適用されることになります。

もっとも、暗号のかかっている無線LANの識別符号を利用して、ただ乗りするのみの行為については、109条は適用されず、電波法違反に当たらないという判決がでています。(東京地裁2017年4月27日)」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

高橋 郁夫
高橋 郁夫(たかはし いくお)弁護士 駒澤綜合法律事務所
駒沢綜合法律事務所。宇都宮大学大学院工学部講師。情報セキュリティ/電子商取引の法律問題を専門として研究する。また、法律と情報セキュリティに関する種々の報告書などに関与。

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