夫が亡くなった後に浮気が発覚した場合、夫の親族に慰謝料を請求できるのだろうかーー。こんな相談が弁護士ドットコムの法律相談コーナーに寄せられた。
投稿者の女性によると、夫は生前に4年に渡って浮気をしており、証拠となるビデオやメールも残っているという。慰謝料を請求するつもりはないが、「夫の親族と揉めた時に盾にしたい」という。
このようなケースで、夫の親族に慰謝料を請求することはできるのだろうか。また、もしそれが難しい場合、不倫相手に慰謝料を請求することは可能なのだろうか。能登豊和弁護士に聞いた。
●亡くなった夫の相続人が分割して慰謝料を支払う義務がある
慰謝料は誰が払うことになるのだろうか。
「浮気は夫と不倫相手の2人による共同不法行為であるため、夫と不倫相手は、それぞれ、妻が被った精神的苦痛について、慰謝料全額の支払義務を負います。
それら義務のうち、まず、夫の債務は、夫が死亡すればその相続人が受け継ぎます。今回の相談のケースでは、妻は常に相続人となります。この他に子や夫の父母、兄弟姉妹が相続人となる場合には、法定相続分に応じて分割された形で債務を受け継ぎ、債務を負うことになります」
相続人で分割して支払い義務を負うのか。
「はい、そうなります。ただ、妻は慰謝料を請求することができる権限を持つ人物(債権者)でもあります。そのため、妻が受け継いだ部分の債務は、消滅します。(これを『混同』と言います)。
したがって、妻は、妻の他に相続人がいた場合に限り、その者に対し、法定相続分の範囲でのみ、慰謝料請求をすることができます。夫の親族に対する請求が認められるのはこの場合です。ただし、夫の親族が相続を放棄すれば、その者には慰謝料請求ができなくなるので、注意が必要です」
●不倫相手にも慰謝料請求できるが、3年の時効に注意
不倫相手はどうだろうか。
「不倫相手の債務ですが、先ほど説明した『混同』の影響を受けず、慰謝料全額の支払義務が存続します。したがって、妻は、不倫相手に対して、夫の死亡後も、慰謝料全額の支払を求めることができます」
ただし、不法行為による損害賠償請求権は、損害及び加害者を知ったときから3年で時効にかかりますので、慰謝料請求はそれまでにする必要があります。このように、慰謝料請求には様々な要件が課されていますので、請求のタイミングも含めて、慎重に検討する必要があるでしょう」