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「ルールを守らなければしばく」体罰常習犯の教師の処分は「停職1カ月」で十分か?
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「ルールを守らなければしばく」体罰常習犯の教師の処分は「停職1カ月」で十分か?

「体罰常習犯」の教師には、どんな処分が妥当なのだろうか。和歌山県上富田町の中学校の野球部員に体罰を繰り返していた男性教諭が「停職1カ月」の懲戒処分を受けた。3月中旬の県教委の発表によると、男性教諭は過去にも4回、町教委から厳重注意などを受けていたという。

この男性教諭は昨年8月~今年2月、2年生の野球部員5人に対し、指導に従わなかったなどとして、胸ぐらをつきとばす、頭を平手でたたくなど、計16回にわたって体罰を加えていたと報じられている。ただ、生徒にケガはなかったようだ。

体罰を加えるほか、生徒に「ルールを守らなければしばかれます」との誓約文を書かせたり、「殺す」などの暴言も浴びせていたという。男性教諭は「生徒に求めるものが大きすぎた」「今後絶対に体罰をしません」と反省しているそうだ。

県教委によると、男性教諭に下された「停職1ヵ月」の処分は、「和歌山県の基準では、ケガを伴わない体罰に対する処分の中では最も重い」ということだが、ネットでは「処分が軽すぎる」という声も少なくない。「刑事事件として告訴するべき」という意見もある。はたして、学校の部活動での体罰は「刑事告訴」すべき事態なのだろうか? 

●「体罰は絶対的に禁止されている」

体罰など学校における紛争問題にくわしい高島惇弁護士は、今回のケースで「体罰を加えた教師を告訴することは可能です」と語る。

具体的には、どのような訴えができるのだろうか。

「そもそも、学校教育法11条では『体罰を加えることはできない』として、体罰の絶対的禁止を定めています。

また、刑事事件としても立件が可能です。胸ぐらを突き飛ばしたり、頭を平手で叩くなどの行為については『暴行罪』。『殺す』などの暴言を浴びせる行為については『脅迫罪』がそれぞれ成立する可能性があります。

また、過去に4回処分を受けているのに、なお行為に及んだことから、悪質性は高いとも判断されるでしょう」

実際に、体罰教師が告訴されたケースはあるのだろうか?

「過去、告訴にいたったケースは複数、存在しています。最近ですと、2012年に大阪市内の高校で生徒が体罰後に自殺した事件において、その翌年、遺族が部活の元顧問を大阪府警に刑事告訴しました。その後、元顧問は在宅起訴され、傷害と暴行の罪に問われた一審で、懲役1年(執行猶予3年)の有罪判決が言い渡されています」

元顧問側は控訴せず、有罪が確定した。また、元顧問は事件後、懲戒免職となっている。

●体罰は「部活動」でよく発生する

ところで、殴る蹴るといった明確な暴行行為がない場合でも「体罰」といえるのだろうか。

「誰もがわかる『殴る蹴る』といった直接的な行為だけでなく、『児童生徒に肉体的苦痛を与えるようなもの』も含まれます。たとえば、正座・直立など特定の姿勢を長時間強制する行為なども体罰に含まれているのです。

ただ、すべての身体的接触が体罰にあたるわけではありません。授業中に悪ふざけしている生徒をいさめる目的で肩や腕を掴んだ場合など、状況や行為しだいでは生徒に対する『懲戒権の行使』として、適法と判断されるケースもあります。

教員と身体的接触があったら、すぐさま『体罰だ』とは言い切れませんので、注意が必要です」

高島弁護士はこれまでの経験から、特に部活動の時間帯に体罰が発生しやすいと指摘する。

「体罰は、部活動においてよく発生するのが特徴です。授業中における指導とは異なり、部活動では、顧問が不当な目的で暴行するケースが極めて多いのです。

今回も『ルールを守らなければしばかれます』といった理不尽な誓約を要求していることから、『懲戒権の行使』として暴行が許容される可能性は、極めて低いのではないでしょうか」

高島弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

高島 惇
高島 惇(たかしま あつし)弁護士 法律事務所アルシエン
学校案件や児童相談所案件といった、子どもの権利を巡る紛争について全国的に対応しており、メディアや講演などを通じて学校などが抱えている問題点を周知する活動も行っている。近著として、「いじめ事件の弁護士実務―弁護活動で外せないポイントと留意点」(第一法規)。

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