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「ホワイトカラーは残業代ゼロ」を導入したらどうなったか?弁護士が米国の実態を報告
アメリカで調査を行った三浦直子弁護士

「ホワイトカラーは残業代ゼロ」を導入したらどうなったか?弁護士が米国の実態を報告

「制度を取り入れることで、ダラダラ残業がなくなることはありえない」「残業代の抑制がなくなれば、使用者(会社)はどこまでも社員を働かせる」

政府が導入を検討する「高度プロフェッショナル制度」(通称「残業代ゼロ法案」)のモデル制度が実施されているアメリカでは、こんな指摘が出ていると、現地調査をおこなった弁護士たちが3月23日、東京・永田町の集会で報告した。

衆議院第二議員会館で開かれた集会のテーマは、アメリカの「ホワイトカラー・エグゼンプション」の運用実態と問題点。今年1月25日〜2月1日にかけてニューヨーク、ワシントン、ロサンゼルス、サンフランシスコの4カ所で現地調査をおこなった日本の弁護士たちが登壇した。

調査団の1人である三浦直子弁護士は、冒頭の声のほか「『アメリカは手本ではない』などの声を、どこでも耳にした」と語り、制度導入への慎重な姿勢を求めた。

●エグゼンプションの年収要件は「貧困ライン以下」

アメリカの法定労働時間は週40時間であり、超えた分については50%増しの賃金支払いを義務づけている。しかし、ホワイトカラー・エグゼンプションでは、年収要件(週給455ドル以上)と職務要件(管理職や専門職)を満たす人をこの規定から除外し、残業代を支払わなくても良いとしたのだ。

しかし、週給455ドルを年収換算すると、日本円でおよそ年収280万円ほどだ。三浦弁護士は、この金額設定にも問題があると指摘する。

「アメリカでは、時給で働く人を除いた人のうち89%が、週給455ドル以上をもらっています。そもそも、この週給455ドルという金額は、国際調査局が定める4人家族の貧困ライン以下の金額です」

本来の趣旨とは異なり、貧困層にもデメリットの大きい制度であることを強調した。さらに、職務要件の曖昧さも問題点にあげた。

「管理職として除外された人は、管理業務は1%ほどで、残りの99%は商品棚の前での作業など、管理的な業務とは無関係の仕事をしています。彼らは上司から『あなたは管理職だ』と言われて断りきれず、残業代が支払われていないのです」

●「日本は時代に逆行しようとしている」

現在アメリカでは日本とは反対に、ホワイトカラー・エグゼンプションの規定が時代遅れだとして、低すぎる年収要件の見直しや職務要件の明確化などを検討している。今年中に改正案が発表される見込みだという。

三浦弁護士とともに調査を行った井上幸夫弁護士は、次のように警鐘を鳴らした。

「アメリカではエグゼンプションの対象者をより少数に限定することで、残業代を支払わない労働者を大幅に減らそうと改善に動き出しているのに対し、日本は時代に逆行しているのではないかと感じます。

日本でもし制度が導入されたら、名ばかり管理職や、ブラック企業の不払い、名ばかりエグゼンプトが横行する危険があります」

日本の国会に提出された「残業代ゼロ法案」は、「年収1075万円以上を稼ぐ一部の専門職」の労働者に限って、残業代を払わないようにするのだとされている。しかし、いったん「残業代ゼロ」がルール化されてしまえば、その後の改正によって年収要件がだんだん下げられていく可能性は否定できない。アメリカの現状は、対岸の火事とは言い切れないのだ。

(弁護士ドットコムニュース)

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