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スターウォーズにみる「緊急事態条項」の問題点、弁護士が解説「ヤバさを実感して」
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スターウォーズにみる「緊急事態条項」の問題点、弁護士が解説「ヤバさを実感して」

2015年12月に10年ぶりの新作映画「フォースの覚醒」が公開され、注目を集めているスターウォーズ・シリーズ。若手弁護士で構成される「明日の自由を守る若手弁護士の会」は、スターウォーズのストーリーを下敷きに、自民党の憲法改正案に含まれている「緊急事態条項」の問題点を解説する記事をフェイスブックに投稿し、話題を呼んだ。「参議院選挙のためにスターウォーズを見ておくべき3つの理由」というタイトルの記事だ。

2012年に発表された自民党の改正憲法の草案では、98条と99条で緊急事態について定めている。戦争や地震災害などの緊急事態が起きた場合に、内閣総理大臣が「緊急事態」を宣言すると、法律と同等の効力がある政令を定めたり、総理大臣が財政上必要な支出をできるようになる。事後に国会の承認が必要だが、総理大臣に強い権限が集中する仕組みになっている。

スターウォーズと比較して、どんな問題点を考えることができるのか。記事を書いた内山宙弁護士に聞いた。

●銀河共和国の最高議長は「非常事態」を宣言して銀河帝国を打ち立てた

まず、スターウォーズをご存じない方のために、ざっくりとストーリーを紹介します。

物語は、人類をはじめとしたさまざまな異星人が共存する銀河系が舞台です。これまでエピソード4→5→6→1→2→3→7の順番で劇場公開されています。「フォース」という特別な力を駆使して銀河の正義や平和を守る役割の「ジェダイ」という騎士たちの活躍を中心に、銀河共和国の崩壊と銀河帝国の勃興、帝国に対する反乱といった国家の変遷を描いた長大な物語です。

エピソード1~3では、銀河共和国を離脱しようとする分離派が、軍隊を組織して戦争を仕掛けてきました。共和国の危機だということで、議会は非常事態宣言をして、議長に非常大権を与えて軍隊を創設しました。その際、議長は、非常事態が終わったら、速やかに非常大権を返上すると言っていました。

ところが、危機が去っても議長が非常大権を返上しないので、「おかしいぞ」ということになりました。ジェダイの騎士たちが調査したところ、議長こそが黒幕だと分かり、ジェダイたちは議長を倒そうとしました。ところが、ジェダイのホープであるアナキン(後のダース・ベイダー。エピソード4~6の主人公ルークの父)が議長に騙されて、黒幕の議長(ダース・シディアス)を倒そうとしていたジェダイを殺してダークサイドに堕ちてしまい、議長の手先になってしまいました。

議長は、銀河共和国を廃止して、銀河帝国の設立を宣言し、皇帝になりあがります。皇帝はジェダイが反乱を起こしたというレッテルを貼り、虐殺を命令し、ジェダイは滅びたと思われていました。

エピソード4~6は、銀河帝国に抵抗する反乱軍が活躍し、反乱軍に入った主人公のルークがフォースの力に目覚めてジェダイとなり、ダークサイドに堕ちた父ダース・ベイダーを救い、皇帝を倒していくという物語です。

このように、映画「スターウォーズ」は、最高議長が自作自演で危機を演出して、非常事態だと訴えて権力を握り、最終的には民主主義を否定して皇帝になってしまうというストーリーだったのです。

●民主主義によって、民主主義が終わってしまう危険性

ただ、スターウォーズの非常事態宣言は、自民党の主張する緊急事態条項よりは、まだマシなものです。なぜなら、自民党の案は、内閣が自分で「緊急事態」の宣言ができるのに対し、スターウォーズでは議会で承認されなければ最高議長は非常大権を得られなかったからです。

自民党の案も、事後的に国会の承認が必要ではありますが、与党が多数を占めている議院内閣制では、政府の方針は国会ではそのまま承認され、全く歯止めにはなりません。安保法案の審議を思い出してください。

スターウォーズでは、非常事態宣言による最高議長への権力の集中も、帝国の成立も、議会で承認されました。エピソード1~3のヒロインのパドメは、「自由は死んだ。万雷の拍手の中で」と表現しました。その後、銀河帝国の成立から崩壊まで、実に20数年かかったのですが、非常事態宣言のコントロールが効かなくなると、後で民主主義を取り戻すのがどれだけ大変かということがよく分かります。

自民党のいう緊急事態条項では、内閣が法律と同じ効力の政令を自分で作ることができ、国民は政府の指示に従わなければならず、人権侵害も予定されています。

たとえば、非常事態宣言のやり方がおかしいと言って政府を批判しようとすると、「公の秩序を害する」といって規制されることもあり得ます。真実の報道ができず、本当のことが分からなくなってしまい、おかしな緊急事態宣言をした政府を、選挙で民主的に変えることもできなくなってしまうのです。

大災害やテロなどの危機に対応すること自体は必要ですが、そのための緊急事態条項だと思っていたら、民主主義が終わりかねないのです。

●司法が事後的にチェックできる仕組みが必要

スターウォーズに出てくるジェダイは、争いを調停したり、ライトセイバーでワルいヤツをやっつけたりします。今でいうと、警察と裁判所と執行官を足したような存在です。凄い力をもっているわけですが、厳しい訓練と倫理的な規則があって、それで信頼されているように感じられます。

非常大権を握った最高議長が、実は黒幕だったことをジェダイが知って止めようとしますが、返り討ちにあってしまいます。ある意味、「司法が行政の暴走を止めようとしたけど、歯が立たなかった」といった状況です。

一方、自民党の緊急事態条項では、司法が事後的に緊急事態条項の行使をチェックできるかどうか、何も触れていません。そもそも、日本の裁判所は、行政の行為について、「極めて政治性が高い」と言って、憲法判断を回避して、政治に丸投げしてしまうことが多くあります(「統治行為論」と呼ばれています)。

政府が「大変だ!緊急事態だ!」と言っている状況では、「極めて政治性が高い」と言って、裁判所が判断を回避する可能性は高いでしょう。しかも、本当に緊急事態かどうかは、おそらく特定秘密に指定されるでしょうから、判断のための資料すら出てこない可能性が高いのです。

緊急事態条項を入れるのであれば、少なくとも司法がきちんと判断して、人権侵害を防ぐ仕組みまで含めて入れ、統治行為論を否定しなければいけません。フォースの凄い力があったとしても、ジェダイは歯が立たなかったんですから、司法の権限をしっかりと法案に書き込んでおかないと危険です。

●国民一人一人にフォース(主権)がある

スターウォーズでは、非常事態宣言で独裁者が出てきて、帝国になってしまった後、フォースに覚醒したルークが帝国を倒してくれます。ですが、日本には、憲法が無視される立憲主義の危機を都合よく救ってくれるジェダイの騎士はいません。

その役目にあるのは、私たち国民ひとりひとりです。幸い日本はまだ、国民主権であり、民主主義です。私たち一人ひとりが「自分たちには力があるんだ」ということに覚醒したら、このスターウォーズの非常事態宣言より酷い「緊急事態条項」のための改憲を止めることができるかもしれません。

なぜなら、憲法を改正するためには、まず衆参両議院の各3分の2以上の賛成で国民投票の提案をしなければならないからです。参議院の242議席の3分の2以上というのは161議席です(議長の分の1議席はカウントから除いて計算しています)。現在、改憲派の自公・おおさか維新・旧次世代で150議席弱なので、まだ10議席以上足りず、憲法改正の発議はできません。

一方、7月の参議院選挙で改選される民主党の議席は42議席もあります(参議院における民主党の全議席の71%以上)。これは、政権交代で民主党が大勝した時の議席なので、なんとかこの議席数を維持し、改憲を阻止するためには、野党が共闘しないとまずい状況です。

そして、野党が細かいところで一致できなくて共闘できないのであれば、私たち市民が目覚めて、野党に共闘を求めて行く必要があります。昨年夏、野党が違憲な安保法案に反対して共闘できたのは、市民が求めていったからでした。それだけの力(フォース)が、私たちにはあるのです。

だって、国民主権なんですから。ですから、緊急事態条項のことを聞いたことがなかったあなたも、参議院選挙までにスターウォーズを見ていただいて、ヤバさを実感して、国民主権に覚醒していただきたいと思います。

国民主権と共にあらんことを。

(弁護士ドットコムニュース)

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