政府による社会保障・税番号「マイナンバー」の運用が2016年1月から始まる。勤務先からマイナンバーを申告するように言われた人もいるだろう。IT企業の人事部に勤めるタカオさん(30代)は、社員に提出を呼びかけているが、内心では「嫌がる社員にも強制できるのか?」と不安を感じているそうだ。
タカオさんは自分で調べたり、上司らと協議した結果、社会保障関連の届出書や税務署への提出書類に従業員のマイナンバーを記載する必要があると理解している。そこで、社員にマイナンバーを申告してもらい、厳重に管理するよう整備を進めている。
しかし最近、報道を通してマイナンバーの受け取りを拒否する人たちがいることを知った。そこで、「信念で拒否している社員がいる場合、どこまで強制して良いのでしょうか。また、どうしても提出したくないと言われたら、どのようにしたら良いのでしょうか」と悩んでいるそうだ。
従業員がマイナンバーの提供を拒否した場合、会社はどのような対応をすれば良いのだろうか。内閣官房でマイナンバー法(番号法)の立案作業に携わった水町雅子弁護士に聞いた。
●従業員に対して必要な説明とは?
「企業では、まず従業員その他の対象者に十分な説明を行った上で、マイナンバーの提出を求めます。従業員にしてみれば、自分のマイナンバーがどのように使われるのか、安全がきちんと守られるのかがわからず、不安を覚えることも考えられます。
そこで、従業員に対して、以下の点を中心に十分な説明を行いましょう。
・企業には社会保障や税務の手続上、マイナンバーを取り扱う義務が概して課されるため、マイナンバーを取得する必要があること
・企業は、個人情報保護法および番号法に従い、マイナンバーを適切に取り扱うこと
・企業は、社会保障手続や税務手続のためにしか、マイナンバーを利用しないこと
・マイナンバーの利用目的
取得できたマイナンバーは、給与所得の『源泉徴収票』や『雇用保険被保険者資格取得届』などの手続書類に記載して、税務当局やハローワークなどに提出します」
●提供が拒否されても、企業が被る被害は通常考えにくい
それでも、提出しない社員がいた場合は、どのように対応すれば良いのだろうか。
「拒まれるなどして取得できなかった分については、個人番号欄を空欄にした状態で、手続書類を提出します。
マイナンバーを取得できなかった場合でも、雇用保険や健康保険に加入させなかったり、給与を支払わないということはしないで、そのまま手続を進めなければなりません。また、『いつ、誰が、誰に対して、マイナンバーの提出を求めたが、提出を受けられなかった』という事実関係や経緯を記録し、保管しましょう。
企業にしても、営利目的でマイナンバーを取り扱うわけではなく、概して法令上の義務として取り扱うことになるわけですが、マイナンバーを取り扱う以上、番号法や個人情報保護法等を遵守する必要があります。
法や制度は不可能を強いるものではないので、提供を拒否されても、企業として上記のようなやるべきことを行っていれば、企業が被る不利益は通常考えにくいです。脱税や詐欺など別の犯罪のためであれば別ですが、マイナンバーを記載しなかったとしても、刑事罰が科されることは通常ありません」
水町弁護士はこのように指摘していた。