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導入10年超、東京・港区版「スクールロイヤー」 校長からは「心強い」と好評
港区役所(ワンセブン / PIXTA)

導入10年超、東京・港区版「スクールロイヤー」 校長からは「心強い」と好評

千葉県野田市で小学4年生の女の子が亡くなり、両親が逮捕された事件。父親が学校と教育委員会に過度な要求をしていたことが分かり、弁護士が法的なアドバイスをする「スクールロイヤー」の必要性が指摘されている。

東京都港区では、独自に2007年から「学校法律相談制度」という取り組みを始めている。弁護士が「法律アドバイザー」という立場で、校長から電話などで相談を受けるものだ。

●念書要求「よくある」

「先生は教育の専門家なのに、そこに集中できない状態にある。本来の仕事に邁進してもらいたい。こうした制度で現場の先生の肩の荷を降ろしてあげたい」。

こう話すのは、学校法律相談制度に携わる「港法曹会」(港区に事務所もしくは在住している弁護士でつくる有志団体)の中村博弁護士。過度な要求をする保護者の存在は、教員に重くのしかかり、ストレスや長時間労働の一因になっている。

中村博弁護士

校長から弁護士に寄せられる相談の多くは、学校内での喧嘩やいじめなど生徒間トラブルに関するもの。中村弁護士によると、野田市の事例のように保護者が念書を要求することは「よくある」という。

保護者から指摘を受けた場合、まずは事実確認をおこない、学校側の過失があったのかを調査する必要がある。しかし、「書面を書いて」などと詰め寄る保護者に対し、学校側が言われるままに謝罪文を書いたり、サインをしたりするケースは多いという。

中村弁護士は「事実を調査した上で、学校側に問題がない言いがかりのようなものであれば、保護者に対しても毅然とした対応で望むしかない」と指摘する。

●すぐに相談できる弁護士を

港区がこうした制度をいちはやく導入したのは、過去の苦い経験があるからだ。

約10年前、港区のとある中学校での学校内トラブルが、裁判手続きを取るまでに発展した。何故そこまで問題が大きくなってしまったのか。原因を調べたところ、法的な問題になっているにも関わらず、認識が甘く、学校や教育委員会の対応が後手に回ったことが大きな要因だった。

「問題が起きた時に、すぐに法律相談できる弁護士をそばに置いておくべきではないか」。弁護士でもある教育委員が発案し、市の法律相談を担当していた港法曹会との連携が始まった。

●相談件数は増加傾向に

学校法律相談制度は、港法曹会の「学校問題委員会」に所属する21人が手分けして、公立の小中学校28校と12の幼稚園を担当している。校長(園長)は、電話もしくは対面で直接相談ができ、教育委員会へは港法曹会を通じて月ごとに内容が事後報告される。

相談件数は増加傾向にある。港区の出生数がこの10年で倍近くになっていることも多少関係しているとみられるが、自校の担当弁護士が決まっており、相談のしやすさも大きく影響していそうだ。

相談実績

制度開始当初は、1校につき主担当と副担当2人の弁護士をつけたこともあった。しかし、校長から「どちらに相談すればいいのか迷う」といった声が寄せられ、数年前から弁護士1人が1〜2校を担当する制度に変えた。今後も校長が転任しない限り、担当弁護士も変わらないようにする予定だという。

港区から港法曹会に支払われる委託料(予算ベース)は、年間324万円。この中に、保護者との面談に同席し、弁護士が法的見解を直接説明する「同席制度」の料金も含まれる。1回1万円で区全体で年間6回までと決められている。

●校長「心強い」「精神的なバックアップ」

港区が2018年12月、区内の校長や園長に行ったアンケートでは「非常に心強い制度で、続けて欲しい」「精神的なバックアップとなっている」といった声が多数寄せられた。市の担当者も「とても助かっており、欠かせない制度だ」と話す。

中村弁護士は「港区の制度は、学校側の代理人ではなく、あくまでアドバイザーという立場。直接、保護者対応をするには立ち位置が難しい部分もあるが、制度開始後は訴訟まで発展した事例がない。トラブル拡大を防ぐための初期対応はしっかりできているのではないか」と話している。

国の動きも進みつつある。

文部科学省は以前よりスクールロイヤー活用に関する調査研究をおこなっている。

千葉県野田市の事件を受け、柴山昌彦文部科学相は2月12日の閣議後会見で、学校が弁護士に相談し、法的なアドバイスを受けることが「有効である」との認識を示し、「配置の促進について今後検討していきたい」と発言した。スクールロイヤー制度は今後拡大していく可能性がありそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

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