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「COACH」じゃなくて「高知」ブランドに注目あつまる…商標登録は認められる?
「高知」の長財布(公式サイトより)

「COACH」じゃなくて「高知」ブランドに注目あつまる…商標登録は認められる?

米ファッションブランド「COACH」・・・ではなくて、「高知」という文字をあしらった日本のブランドが注目をあつめている。

高知出身の中島匠一さんが立ち上げたオリジナルブランドで、「高知」という文字をあしらった長財布や靴、腕時計など、ファッション小物を販売している。朝日新聞によると、全国から注文が殺到しているそうだ。

お笑いコンビ「NON STYLE」の石田明さんが8月10日、ツイッター上で、長財布の写真とともに「COACHと思ったら高知やった」とつぶやいた。リツイートは3万以上、「いいね!」も18万を超えた。

特許や商標の検索サイト「J-PlatPat」で調べたところ、中島さんの名義で「高知」が商標出願されていた。デザインは「COACH」に似ていなくもない気がするが、法的な問題はないのだろうか。知的財産権にくわしい冨宅恵弁護士に聞いた。

●「COACH」と「高知」が商標として、類似するか否か

「まず、検討しなければならないのが、米ファッションブランドの登録商標である『COACH』の商標権を侵害しないかという問題です。

商標は、商標を使用する商品を指定して登録することになるのですが、そのようにして登録された商標は、同一の商品または類似する商品に、同一または類似する商標に対して権利が及ぶことになります。

『高知』は、中島さんが販売している洋服や財布等を指定商品として、商標登録をおこなっているため、『COACH』と『高知』が商標として、類似するか否かが問題となります」

●「取引の実情」を考慮するということになる

商標が類似するかどうかは、どのように判断するのだろうか。

「商標は、目に触れ、音で聞きくことによって、概念化されて人の頭の中に残ります。

ですから、商標が類似するか否かの判断も、『外観』『呼称』『概念』を比較して判断することになります。

このような基準で判断される商標の類否判断ですが、比較する両者の商標を机上で比較するのではなく、それぞれの商標が実際に市場でどのように使用されているのか、それによって、一般の人がどのように、それぞれの商標を認識しているのかという点が考慮されます。

これを一言で表現すると、『取引の実情』を考慮するということになるのですが、商標の類否判断における『取引の実情』は、特許庁よりも裁判所において重視される傾向にあります」

●「フランク三浦」事件が参考になる

「ここで参考になるのが、スイスの高級腕時計ブランドの『フランクミュラー』と『フランク三浦』の問題です。

『フランク三浦』は、商標登録されていたのですが、『フランクミュラー』が自社の登録商標と類似することなどを理由に商標登録の無効を求める審判の申立てをおこない、特許庁では、『フランク三浦』の商標が無効であると判断されました。

ところが、『フランク三浦』は、特許庁の判断が不服であるとして、知財高裁に特許庁の審判を取消す訴訟を提起したところ、知財高裁は、特許庁の判断を取消して、『フランク三浦』の商標登録を維持しました。

この問題で、特許庁と知財高裁との間で判断が分かれた決め手は、『取引の実情』でした。

『フランクミュラー』の時計は、価格が数十万、数百万の高級時計であるのに対して、『フランク三浦』の時計は5000円前後です。購入層が明らかにことなります。

そして、時計を購入する人が『フランクミュラー』と勘違いして『フランク三浦』の時計を購入することがありません。知財高裁では、これらの事情を考慮する両者の商標は類似しないと判断したわけです」

●『高知』の商標登録も認められると考えられる

この問題にどのような影響を及ぼすのか。

「『フランク三浦』のケースは、登録された商標が無効になるのかという問題でしたが、登録された商標の権利が及ぶのかについても、基本的に同様に考えることになります。

『COACH』と『高知』は、呼称が似ているだけで、外観、概念はまったく異なります。また、両者の商品では、価格がまったく異なり、一般の人が両者を混同することもないと思います。

『フランク三浦』に対する知財高裁の考え方を前提にするならば、『高知』は『COACH』の商標権を侵害しないと判断されることになるでしょう。

ただ、『高知』は、商品の産地や販売地を示すものと評価されて、商標登録の拒絶理由があると判断されることになるでしょうから、『フランク三浦』のように商標登録までは認められることはないでしょう」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

冨宅 恵
冨宅 恵(ふけ めぐむ)弁護士 スター綜合法律事務所
大阪工業大学知的財産研究科客員教授。多くの知的財産侵害事件に携わり、プロダクトデザインの保護に関する著書を執筆している。さらに、遺産相続支援、交通事故、医療過誤等についても携わる。「金魚電話ボックス」事件(著作権侵害訴訟)において美術作家側代理人として大阪高裁で逆転勝訴判決を得る。<https://www.youtube.com/c/starlaw>

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