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転職サイトに「口コミ」投稿→会社が怒って法廷闘争も…どこまで書き込んでいいの?
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転職サイトに「口コミ」投稿→会社が怒って法廷闘争も…どこまで書き込んでいいの?

社員や元社員からリアルな評判が書かれた転職口コミサイト。転職を考える際に見る人も多いと思いますが、その転職サイトへの書き込みを巡って、法的トラブルに発展するケースが増えています。

こうした相談は、弁護士ドットコムにも複数寄せられています。

ある女性は、ハラスメントで離職した会社について口コミを投稿したところ、総務部から同期を通じて「ありもしないことを書いている、削除しろ」などと言われました。女性は「正直怖いです。ありもしないことを書いてはいませんが、パワハラを受けたという文言はいれています」と話します。

また、別の男性は、パワハラのため退職したという会社について、つい感情的になり、評判を下げるような内容の口コミを書きました。「嘘は書いていない」ということですが、書き込んだ3日後に会社から、男性が書いたかどうか問い合わせる電話があったそうです。男性は今後、会社との間で訴訟に発展しないかどうか気にしています。

真実であっても、企業にとってマイナスの情報は、名誉毀損となってしまうのでしょうか。ネットの問題に詳しい深澤諭史弁護士に聞きました。

●「ブラック」発信者が反論するケースも

ーー転職サイトを巡って、「ブラック」と書き込まれた会社側が発信者情報開示請求を行うも、ブラックの事実について発信者が証明し、開示請求が棄却される事例があると深澤弁護士はツイートしています。(ツイート埋め込み)。こういったケースは多いのでしょうか。

このあたり、統計データがあるわけではないので、明らかではありません。ただ、自分が担当した事件以外の判決文も収集していますが、最近、会社側の請求が棄却されるケースも増えてきていると感じております。

また、裁判所の考え方の変化も感じています。かつては、否定的な事実であれば開示が認められるケースも多かったのです。ですが最近は、事実に具体性がないから名誉権は侵害されていない、と判断されるケースも増えています。

逆に具体性が非常にあるため、すくなくとも真実ではないと言い切れず、かつ社会の正当な関心の対象であるとして開示請求を棄却するケースも増えています。

後に述べるように、開示請求があった場合に投稿者に届く「意見照会」の時点で、適切に反論をする発信者も増えている、裁判所も多くの場合、それをしっかりと検討している、ということも、大きな要因だと思います。

●どこまで書き込んでいいの?

ーー転職口コミサイトはリアルな声が書き込まれているからこそ、利用者が増えているのだと思いますが、実際のところ法的にはどこまで書いていいのでしょうか。

このあたり、実はかなり微妙です。例えば、交通事故であれば、交通ルールがあり、どちらが悪いのか、どれくらい悪いのか、いろいろと先例が積み上がっています。しかし、ネットの投稿では、一定の判断基準がありません。

ネットを巡る法的問題の歴史が浅いことも理由の1つですが、文章である以上、中傷の内容、組み合わせは無限にあるため、「信号無視」「スピード違反」といった類型化が全く出来ないという難しさもあります。

ーー書き込む際に気をつけるべきポイントを教えてください。

法的にOKかどうかのラインとしては、事実を投稿する場合は、真実であり、かつ、そうであるとの証明の出来ること、転職情報として有用有益であるものであることが必要でしょう。

また、評価を記載する場合は、真実に基づくべきであり、かつ、人身攻撃に及ぶなど不相当、不穏当でないようにする必要があります。

ーー会社や社員の雰囲気などの口コミは、主観で書かれることが多いと思います。「ワンマン社長」など証明しにくい「ブラック」の事実については、全て悪口で名誉毀損とみなされるのでしょうか。

かつては違法であるとの評価を受けるケースが多かったと思いますが、最近は、表現の過激さの程度などを慎重に審査して、悪口であっても開示が認められないケースが増えつつあります。

ただ、ここは判断が揺れ動くところです。「この程度の投稿であれば、開示請求訴訟で名誉毀損であると認められない」と非開示になる可能性も十分ありますが、投稿者側の反論次第、先例になるような裁判例を指摘出来るか、究極的には、裁判所の判断次第というところもあります。

ーーもし、転職サイトへの書き込みを巡って、法的トラブルにまで発展した場合、書き込んだ側はどのように対処したらいいでしょうか。

会社側などから開示請求があった場合、通常、投稿者には「発信者情報開示請求に係る意見照会書」という文書やメールがプロバイダなどから届きます。

このとき、任意に開示に応じるかどうか、拒否するのであれば、その理由が照会されます。

ここで提出した書面は、通常は開示請求訴訟で利用されることになります。

開示を拒むのであれば、この時点で適切に対応し、必要十分な反論をし、不利益にならないよう対応を誤らないことが重要でしょう。逆に、しばしばあることなのですが、自分に不利になるようなことを言わないことも大事です。

特にネット上にあるネットに関する法律情報は、古かったり、あるいは楽観的だったり感情的で間違っていることも多いので注意が必要です。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

深澤 諭史
深澤 諭史(ふかざわ さとし)弁護士 服部啓法律事務所
明治大学法学部卒業、東京大学法科大学院修了。IT関連事件、ネット上の表現トラブル、刑事弁護、弁護士法令問題などを中心に取り扱う。主な著書に「弁護士の護身術」「まんが 弁護士が教えるウソを見抜く方法」「その「つぶやき」は犯罪です」、「弁護士のための非弁対策Q&A」「Q&A弁護士業務広告の落とし穴」「インターネット権利侵害Q&A」。

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