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東京医大・女性差別の背景にある「医師の過酷労働」、「患者拒めない」応召義務など論点に
多くの報道陣が詰めかけた東京医大の会見では「アクティビティ」などの認識が問われた(東京・新宿、8月7日)

東京医大・女性差別の背景にある「医師の過酷労働」、「患者拒めない」応召義務など論点に

東京医科大で、女子と多浪の受験生の入試得点を操作する不正が明らかになった。得点調整をした理由のひとつに「女性は年齢を重ねると、医師としてのアクティビティ(活動性)が下がる」との認識があったとされ、内部調査委員会(委員長=中井憲治弁護士)は「重大な女性差別。断じて許されない」と指摘した。

内部調査委に対し、アクティビティについて言及したのは臼井正彦・前理事長。女性は出産して育児をし、そうすると長い時間働けないなどと話したという。急患対応もあり、医師の長時間労働は常態化しがちだ。とはいえ労働環境が過酷でも、「アクティビティが下がる」と女性を差別するのではなく、そもそもの環境改善を図るべきだという声は少なくない。

厚生労働省としても長時間労働に問題意識を持っており、厚労省の検討会は9月以降、医師が正当な理由なく診療を拒めない「応召義務」などについて集中的に議論を深める予定。長時間労働を是正しつつ、十分な医療を提供できるのか。議論の行方が注目される。

●女性医師が働きやすいよう「きめ細やかな対策を進める」

厚労省の検討会は「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取り組み」として今年2月、短時間勤務の導入や宿直勤務の免除などの柔軟な働き方を推進する方針をまず打ち出した。女性医師が仕事と育児の両立をしやすくするため「きめ細やかな対策を進める」と明記した。

また医師の負担を軽くするため、業務の一部を看護師などに任せる「タスク・シフティング(業務移管)」として次の業務を列挙し、「医療安全に留意しつつ、原則として医師以外の職種により分担して実施することで医師の負担を軽減する」とした。

初療時の予診▽検査手順の説明や入院の説明▽薬の説明や服薬の指導▽静脈採血▽静脈注射▽静脈ラインの確保▽尿道カテーテルの留置▽診断書等の代行入力▽患者の移動

こうした「緊急的な取り組み」は、厚労省として各医療機関に周知し、できるものから速やかに実行するよう要請。7月に実施状況が公表され、「実施した」は公立や私立病院で26.8%、大学病院で30.3%だった。ただ、「今後実施を予定」を加えると公立や私立病院は約6割、大学病院は約8割にのぼり、今後の広がりに期待がかかる結果となった。(調査は5月28日から6月11日、対象は全国の病院管理者)

●2019年3月に議論取りまとめ

医師が長時間労働を強いられる背景には、医師法が定める応召義務がある。医師法19条は「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と規定している。

今後、厚労省の検討会は9月に会合を2回開き、応召義務や宿直勤務、諸外国の勤務医に対する労働時間規制などについて議論を進めていく。まだ決まっていない時間外労働の上限時間も含め、議論の取りまとめは来年3月とする予定だ。

厚労省医政局の担当者は「労働時間の把握やタスクシフトなど、現行制度下で運用でできる部分については、まず取り組んでほしい」。法改正が絡むものについては時間がかかるが、「検討会の取りまとめを受け、必要な措置をしていく」と話した。

また厚労省は来年度、「適切な医療のかかり方」を国民に初めて周知する方針だという。来年度予算の概算要求に必要な予算を盛り込む。身近なかかりつけ医を持つことを呼びかけ、不急の時間外での診察が減って、医師の長時間労働が是正されることが狙いとしている。

(弁護士ドットコムニュース)

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