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2018年04月08日 09時06分

「なりすましは表現の自由の範囲外」代理人が語るツイッターアカウント削除命令の画期性

「なりすましは表現の自由の範囲外」代理人が語るツイッターアカウント削除命令の画期性
画像はイメージです。(chombosan / PIXTA)

ツイッターやフェイスブックなどSNSで他人の名前をかたってアカウントを作る「なりすまし」。

最近も、メディアアーティストの落合陽一さんの妻を名乗るアカウントがFacebookなどに出現し、落合さんが否定するという騒動があった。過去には、実在する弁護士の名をかたったツイッターアカウントが、亡くなった小林麻央さんに関する内容を呟き、SNSでこの弁護士に対する非難が相次いだこともある。

そんな中、2017年10月、さいたま地裁でなりすましアカウントを巡る画期的な判断がなされた。なりすまし被害にあった埼玉県内の女性が、ツイッター社に対してアカウントの削除を求める仮処分をさいたま地裁に申請し、認められたのだ。なりすまし被害について、個別のツイートを削除するケースはよくあるというが、アカウント自体を消すという判断は異例だという。

●どんなアカウントだった?

今回のなりすましアカウントは、どのようなものだったのか。

2017年6月ごろ、「(女性の本名)@(AV女優の名前)」と市町村まで書かれた住所が表記されたアカウントが作成された。女性にはAV出演歴がなかったが、知らない人が見たら、あたかも女性がAVに出演していたかのような印象を与えるものになっていた。

URL欄には女性のブログ、プロフィール欄には他のウェブサイトに掲載された女性のコメントが転載。ツイートでは女性がブログに掲載した顔写真が転載され、その後AV女優のわいせつな画像が11個投稿された。その際、女性が自身の出演作を宣伝しているかのようなコメントが添えられた。

これらのツイートは3日間に集中して投稿され、その後アカウントは放置されていたという。女性は発信者情報開示請求はせず、アカウントの削除を求める仮処分を2017年9月に申し立てた。

女性の代理人を務めた田中一哉弁護士に、今回の事案となりすましを巡る法的問題について聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・出口絢)

●初めてアカウント全体の削除を求めた

ーー今回、なぜアカウント自体の削除を求める訴訟に踏み切ったのか。

私は約8年前から、投稿記事の削除やインターネット上での名誉毀損と言った事件を扱っていますが、ツイッターに対し、アカウント全体の削除を求めたのは今回が初めてです。これまでは、「どうせ認められないだろう」と思い、やったことがありませんでした。ですが、今回の事案は、特に手口が悪質だったため、個別ツイートの削除では不十分と考え、挑戦してみました。

●なりすまし行為自体は、表現の自由の範囲外

ーーツイッター社は、どのような主張をしていたのか

(1)削除の対象は権利侵害性のあるツイートに限られるべきであり、アカウント全体の削除請求は過剰である、(2)アカウント全体を削除するとそのアカウントを使った将来の表現行為ができなくなるため慎重に判断すべき、というのが主な主張でした。

(1)について、私は、他人になりすましてアカウントを作ること自体が違法であると考えています。つまり、なりすましによって行われた表現行為の内容が問題なのではなく、なりすますこと自体が、人格権を侵害すると思うのです。

よって、「なりすましにより人格的同一性を偽られた者は、人格権を被保全権利として、アカウント全体の削除を請求できる」と主張しました。

(2)について、私は、なりすましによる表現行為には、そもそも、表現の自由の保障は及ばないと考えています。自分の名前や仮名あるいは匿名で、自由に表現活動を行うことができます。そうした状況下で、あえて「他人になりすまして表現する権利」を保障する利益はないと思います。

●アカウント全削除「将来の違法な中傷行為を抑止できる」

ーー今回の決定の実務的な影響はどのような点か

今回の決定には、2つの意義があると思います。

1つは、裁判所が、「アカウント全体の削除」という強い措置を認めたことです。これまでは、ツイート単位でしか削除が認められて来ませんでした。今回の決定により、なりすましアカウントによる再度の中傷リスクを排除することが可能になり、被害者の救済に役立つと思います。

2つめは、今回の決定が、なりすまし自体の違法性を認めた可能性がある点です。

実は、このなりすましアカウントには、権利侵害性のないツイートも複数投稿されていました。例えば他人に「ありがとう」などとリプライしていたものなどです。

今回の決定では直接的に言及された訳ではありません。ただ、このようなツイートも含めて、アカウント全体の削除を認めた背景には、「なりすますこと自体が違法なのだ」という判断があるものと、私は考えています。この点で、今回の決定は、なりすまし自体の違法性、ひいては、なりすまされない権利・利益について、指標となりえます。

●なりすまし自体を違法だと認めた判例はない

ーー名誉やプライバシー等への侵害があって初めて違法となり、なりすましただけでは違法と認められないのが現状だが、これについてどう考えているか

なりすまされない権利・利益というものは、人格権に含まれるものとして保護されるべきだと考えます。

今のところ、なりすまし自体の違法性を、正面から認めた判例はありません。ただ、氏名権に関する「NHK日本語読み事件」(最高裁昭和63年2月16日判決)は、付随的な意見の中で「氏名を他人に冒用されない権利・利益」に言及しています。

また、近時、なりすまし事件の審理において、担当裁判官から、「アイデンティティ権」という言葉を聞くことが多くなりました。

これは「他者との関係において人格的同一性を保持する利益」として、中澤佑一弁護士が提唱し始めたものですが、実務上、その認知度は着実に拡大しています。こうした状況の下、近い将来、この点に関する裁判所の明確な判断が示されるのではないかと期待しています。

●ツイッター社は柔軟な運用を

ーーツイッター社は「なりすまし」について、「なりすまし行為はTwitterルールで禁止されています。混同や誤解を招きかねない形で特定の他人として振る舞うTwitterアカウントは、なりすましに関するTwitterのポリシーに沿って永久凍結されることがあります。」(日本語訳)としている。これをどのように評価するか

規定があるのは良いことです。しかし、その運用は硬直化しているように感じます。今回の女性も、事前にアカウントの凍結を要請していました。しかし、「被害者本人からの要請と確認できない」との理由で、ツイッターから拒否されたようです。

少なくとも、この件のように、被害者に甚大な損害が生ずることが明らかなケースについては、もう少し、柔軟に凍結の可否を判断して欲しいと思います。

(弁護士ドットコムニュース)

田中 一哉(たなか・かずや)弁護士
東京弁護士会所属。早稲田大学商学部卒。筑波大学システム情報工学研究科修了(工学修士)。2007年8月 弁護士登録(登録番号35821)。現在、ネット事件専門の弁護士としてウェブ上の有害情報の削除、投稿者に対する法的責任追及などに従事している。
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