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2018年02月06日 09時56分

10年前のわいせつ加害者情報、検索結果からの削除は認められる? 埼玉弁護士会「忘れられる権利」シンポ

10年前のわいせつ加害者情報、検索結果からの削除は認められる? 埼玉弁護士会「忘れられる権利」シンポ
登壇した神田知宏弁護士

「インターネット社会の問題点 知る権利と忘れられる権利」(埼玉弁護士会主催)と題したシンポジウムが2月3日、さいたま市大宮区のさいたま市民会館おおみやで開かれた。具体的な仮想事例に基づいて、大学教授や弁護士が、プライバシーだけでなく、契約の問題や知る権利からの視点も交えながら、議論を重ねた。削除請求の実務に詳しい弁護士からは、インターネットで個人情報が晒されたり、誹謗中傷を受けて相談について「(被害を受けている)多くの人にとって、心理的に負担となっている」と指摘する声も出た。

●最高裁が示した削除容認のための条件

議論に参加したのは、表現の自由などを研究する愛知大学の長峯信彦教授、削除請求の実務に詳しく、削除基準を示した最高裁決定に原告代理人として携わった神田知宏弁護士、弁護士ドットコムでインターネットメディアの運営などに携わる田上嘉一弁護士の3人。

「削除」の定義が曖昧である中、今回のシンポでは、内容が表示されたページ自体の削除ではなく、GoogleやYahoo!といった日本で広く使われている検索エンジンの結果に表示されない状態になることを「削除」として、議論が進んだ。

2017年1月31日に、最高裁は、一定の条件を示した上で、「公表されない利益が優越する場合、検索結果からの削除を求められる」と、削除容認のための条件についての見解を示した。最高裁は一定の条件として、「プライバシー伝達の範囲や被害の程度」「記事等の目的や意義」などを挙げている。

●10年前に出演したAVの情報、削除は認められるか

シンポでは7つの事例に基づいて議論。10年前のAV(アダルトビデオ)出演をめぐる仮想事例においては、神田弁護士が、「現在は普通の仕事をしているような方からのこの手の相談は多い」とした上で、「(時間の経過で出演の事実が)本人のプライバシー化しており、削除しても良いのではないか」と指摘。出演時の名前と本名が別の場合、「(本名で検索してAVの情報が出てこない場合)最高裁の考え方に照らすと、(最高裁が削除容認の条件として挙げた事実の伝達範囲の基準から考えると)見る人や気づく人が多くないという指摘があるのでは」(神田弁護士)として、削除が認められない可能性を示唆した。

長峯教授は「裸を晒すという行為への同意が、(何十年も)ずっと続くと考えるのは難しいのでは」として、削除を容認すべきとの見解を示した。

政治家が過去と違う主張するようになった変節を取り上げた仮想事例ついては、三者が、政治家が公人であることを前提に「消す必要がない」という認識で一致した。田上弁護士は、「政治家の場合、過去を消すのではなく、変更を説明するのが、知る権利の根幹」と述べた。

未成年時代の自宅での飲酒を記載したブログが炎上した仮想事例についても、公共の利害に関することでないことや、未成年飲酒自体が犯罪でないことなどを理由に、削除容認の見解で三者が一致した。

●わいせつ事案、加害者情報の削除は認められない流れ

刑事事件については、成人した男子大学生が他の女子学生へのわいせつ行為をして執行猶予となった仮想事例が1つテーマとなった。事件から10年が経過してもインターネットに情報が残り、男性が経営する事業において、顧客から取引を断わられるなどの影響が出ている前提だ。

神田弁護士が指摘したのは、2017年1月31日の最高裁決定との関連。2017年の最高裁決定では、一定の削除要件を示したが、問題となった事案は児童買春で、最高裁は削除を認めなかった。この点について、神田弁護士は、「(最高裁決定は)わいせつ系の事案なら晒しておいた方が良いという価値観にも見える。最高裁決定前に請求したら、削除を認められたケースだと考えられるが、いまの裁判所は削除を認めないのでは」と推測した。

長峯教授は、「(執行猶予を含めた)法的制裁が終わっており、ネットを通じたリンチをすべきでない」と言及。「ネットに残っているということはすべて社会的制裁になるのか」(田上弁護士)との問いかけには、「わいせつ事件を起こすのは道徳的によくないが、長期的にさらされるのは、広い意味で制裁以外の何者でもない」と答えた。

●ネットで誹謗中傷を受けた人は心理的に負担

まとめの中で、神田弁護士が指摘したのは、自身のもとを訪れる相談者の状態について、「ネットで誹謗中傷を受けたり、プライバシーがさらされている人は、多くの場合、心理的に負担となっている。中には皮膚などに身体症状がでているようなこともある」とした。

さらに、インターネット上に残る個人にまつわるネガティブな情報について、「ただ出ているだけではなく、(出ている状態が)生きる意欲をなくさせるようなことさえある。(最高裁決定の)プライバシーが明らかに優越しないと削除しないというのは、厳しすぎるのではないか」として、今後も削除請求に尽力していく姿勢を見せた。

(弁護士ドットコムニュース)

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