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「日本の権利救済は世界で通用しない」日弁連・中本会長が語る司法の課題
インタビューに答える中本会長

「日本の権利救済は世界で通用しない」日弁連・中本会長が語る司法の課題

日本弁護士連合会(日弁連)の中本和洋会長が12月11日、弁護士ドットコムニュースの取材に応じ、民事司法改革や法曹養成といった司法を取り巻く課題について、会長に就任した2016、17年の動向を踏まえて語った。

●日本の司法に国際的な競争力はない

ーー会長として、どのようなことに最も注力してきたのか。

民事司法の改革、そしてこれに密接に関連している国際活動の強化です。民事司法の分野はもっとも改革が遅れています。これを達成することが私が日弁連の会長になる動機の一つでもあり、ライフワークとして20年来活動してきました。

日本はGDP世界3位の経済大国でありながら、同じく世界1位の経済大国であるアメリカとは、民事司法に関する諸制度の状況は大きく異なります。アメリカでは、日本で採用されていない権利救済に資する諸制度が導入されています。

ーーどのような違いがあるのか。

まずはアメリカの民事訴訟のディスカバリー(証拠開示)制度があります。アメリカではあらゆる証拠が手に入るため、訴訟提起してから証拠収集を始めます。

次に、クラスアクション(集合訴訟)の制度です。個々の被害としては少額の被害であっても、一部の被害者が代表して訴訟を起こし、除外を申請しない全ての被害者を網羅するため、大きな訴訟になります。これで一気に救済できるわけです。

さらに、懲罰的損害賠償です。実際の損害に加え、制裁や違法行為の抑止の趣旨でさらに上乗せして賠償金支払いを命じるものです。日本には「填補賠償」の仕組みがありますが、例えば100万円の債権回収の民事訴訟に勝ったとしても、実際には印紙代や弁護士費用等がかかるため、その部分が減った金額しか被害者に戻ってきません。さらに、強制執行の制度も弱く、回収できないこともあるため、費用倒れになることもあります。

特に国際的ビジネスの訴訟への影響は大きなものがあります。サムスンとアップルの特許侵害訴訟は各国で繰り広げられましたが、アメリカや韓国と比べると、日本で認容された損害賠償額は低く、大きな差がありました。

司法による紛争解決能力そのものが国際的な競争に晒される中、民事司法の一定の制度・分野においては他国に立ち遅れてしまうという懸念があります。他国の法制度も意識した国内法制度の整備が必要です。

●日本から海外への「二重の流出」

ーー具体的にはどのような仕組みが求められるのか。

国際競争力向上のための1つの手段が、依頼者と弁護士の間の通信秘密の保護です。欧米では「秘匿特権」「プリビレッジ」と呼ばれるものです。依頼者と弁護士の間の相談内容について、日本では、明確には開示拒絶権が保障されていません。欧米各国の制度では、民事・刑事訴訟手続などにおける開示から保護される原則が確立されています。

例えば、日本企業の国際カルテルが発覚した際、損害金や課徴金の支払いを命じられることがありますが、日本の場合、弁護士への相談内容の秘密が保障されていないため、日本の弁護士の関与なしに、数百億円単位の費用を払って海外(特に英米)の弁護士に依頼するケースも存在しています。本来なら日本の企業ですから、日本の弁護士にも依頼し、その費用が日本に入るはずです。

つまり、欧米各国から科された罰金や制裁金と英米の弁護士への支出で、日本企業から、お金が二重に流出していることになります。これは大きな問題です。

ここまで海外、主にアメリカとの比較をしてきましたが、もちろん、アメリカの司法制度が全ていいとは思っていません。ただ、日本のように司法の役割が小さければ、国民も企業も泣き寝入りして権利救済を諦めてしまうことになります。被害を被った場合、被害者が諦めるのではなく、きちんと償いをさせることのできる社会を目指すべきです。

●法曹養成をめぐる「時間」と「費用」の問題

ーー次に、その日本の司法を担う人材の問題に移りたい。2017年の司法試験の受験者数は前年比932人減の5967人で、法曹を目指す人が減少している。法曹養成についてどのように考えているのか。

法曹志望者が減っていることについては、法科大学院での教育に時間と費用がかかることが、大きな理由と指摘されています。また、司法試験合格者の8〜9割は弁護士になりますが、弁護士業界は競争が激しくなっており、昔のように「試験に受かればなんとかなる」という状況ではなくなっています。

司法試験合格はスタートであって、ゴールではありません。弁護士は雇用が保証されておらず、サラリーマンのように退職金をもらえるわけでもありません。自分の努力で生きていかなければいけません。時間と費用をかけてなりたいという職業ではない、という認識が一部の人たちの間にあるのかもしれません。

でも、私はこんなに素晴らしく魅力的な仕事はないと思っています。自分で仕事が選べ、社会から評価されます。最近では、企業内弁護士になる人もいれば、地方公共団体や中央官庁で働く人もいて、キャリアの積み方も様々です。企業で会社員として働いてから、弁護士業に戻ってくることもできます。また、報酬が明確になっていて、自分の努力が目に見えることも弁護士の良いところです。

ーー法科大学院を修了しなくても司法試験の受験資格が得られる「予備試験」の合格者が増えている。2017年の合格者は444人で、前年よりも39人増え、過去最多を更新した。

元々は働きながら司法試験合格を目指す社会人や経済的事情がある人のためだったものが、現状は法科大学院生や大学生のショートカットになっています。元々の制度趣旨から外れているため、実施状況を検証し、本来の制度趣旨を踏まえた運用となるようにしなければなりません。

法科大学院は、少人数・双方向的で密度の濃い教育を行い、理論と実務を架橋する幅広いカリキュラムを通じ、事実に即して思考する能力の養成に重きを置いています。また、実務家が積極的に関与しており、展開・先端科目やローヤリングなど、法科大学院でしか学ぶことのできない分野が多数あります。

また、法科大学院を卒業すること自体のメリットもあります。最近では、法務部門の人材として、法科大学院修了生を積極的に採用しようとする企業が増えつつあるという報道もなされているところです。

2017年11月からの第71期司法修習生からは新たな給付制度が創設され、経済的負担の問題の一部が改善されました。今後は、もう一つの課題である「時間がかかる」という時間的負担の問題に取り組む必要があります。これについては、現在、文部科学省の中央教育審議会大学分科会法科大学院等特別委員会において飛び入学・早期卒業の利用を念頭においた教育課程面の連携や法学部と法科大学院の間で事実上の「5年一貫コース」として運用していくなどの議論がなされています。

(弁護士ドットコムニュース)

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