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性的少数者「暴露」が容認される構造にどう向き合う? 一橋アウティング裁判を考える
原ミナ汰さん(左)

性的少数者「暴露」が容認される構造にどう向き合う? 一橋アウティング裁判を考える

同性の友人から恋愛感情を打ち明けられたとき、どうしたら良いのか――。5月5日、明治大学で開かれた「一橋大学アウティング事件」を考える集会で、こんなテーマが話題になる一幕があった。

事件は、一橋大学の法科大学院3年生だった男子学生(当時25歳)が2015年8月に構内の建物から転落死したというもの。亡くなった学生は、同級生の男子学生に恋愛感情を打ち明けたところ、この男子学生により、自身がゲイであることをクラスメートらでつくるLINEのグループで暴露(アウティング)されていた。その結果、精神が不安定になり転落死したとして、遺族は暴露した学生や大学を相手に、慰謝料など計300万円を求めて裁判で争っている。

裁判の最大の争点は、アウティングの違法性だ。この点について、集会に参加した首都大学東京の木村草太教授(憲法)は、「プライバシー権の侵害と言って良いと思う」と語った。

「プライバシー権は、個人情報コントロール権などとも呼ばれる。個人の情報を勝手に公開されないといった権利だ。ゲイであると言う情報はかなりセンシティブで、自死の危険や重大な事態を発生させる可能性が高い。その情報を第三者に伝えることは、深刻な権利侵害だろう」(木村教授)

●「重大な秘密を背負わせておいて、虫が良すぎる」の声にどう応えるか?

一方、暴露した同級生は裁判で、「精神的に追い詰められた」「アウティングよりほかに取り得る手段がなかった」などと主張。ネットでは、「一方的に重大な秘密を背負わせておいて、黙っていろというのは身勝手だ」と、この同級生に同情的な意見も散見される。

これに対し、遺族側代理人の南和行弁護士は、「アウティング以外にも手段はいくらでもあったはず」と反論する。実際、人から聞いた秘密を周囲に言いふらしても問題ないと考える人は少数だろう。

では、男子学生からの告白を「重荷」だと感じた被告学生はどうすべきだったのか。

この点について、NPO法人「共生社会をつくるセクシュアル・マイノリティ支援全国ネットワーク」代表理事の原ミナ汰氏は、(1)相談機関に行く、(2)相手と腹を割って話す、(3)自助グループのような情報を外部に漏らさないルール(ゾーニング)がある場で話す、(4)故郷の友人など対象者と接点がない集団に相談する、の4つを挙げた。

「どんな問題でも、自分の葛藤は自分で解決するしかない。『告白した方が悪い』『恋した方が悪い』みたいな声が上がれば上がるほど、何がいけなかったかということが曖昧になり、その行為(アウティング)が容認されていく構造がある。性被害と同じで、『被害者にも非がある』という声があるうちは、(性的少数者らの)安全は確保できない」(原氏)

●集会参加者は「暴露した同級生も社会の被害者なのかも」

この日、集会には約350人が参加。多数の立ち見が出るほどの盛況ぶりだった。参加者はどう聞いたのだろうか。同性愛者やトランスジェンダーの友人がいるという既婚女性(29)は、次のように感想を語った。

「社会の無理解が、学生を死に追いやったことは間違いないと思う。ただ、告白されたことで葛藤が生まれたり、適切な対処法を取れなかったりしたという点では、暴露した同級生もそんな社会の被害者なのかもしれない。性的少数者だからといって差別されない社会、カミングアウトやアウティングという言葉が必要ない時代が来ることを願っています」

(弁護士ドットコムニュース)

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