休日、親子連れで賑わうフードコート。ごった返しているため、トラブルが発生することもあるようです。
インターネットの掲示板には、こんな怒りの投稿がありました。投稿者によると、フードコート内を走り回る幼児を注意しましたが、走るのをやめず、投稿者がラーメンを運んでいる時にぶつかり、ラーメンの器がひっくり返ってしまったそうです。店から代金はもちろん返ってくるわけでもなく、後始末も自分でしたそうです。
このような場合、子どもの親に責任があるとして、ラーメン代を請求することはできるのでしょうか。災難だったと割り切るしかないのでしょうか。石坂浩弁護士に聞きました。
●常識では「親が弁償」でも、法律は・・・
「フードコートあるある事故ですね。私も両手がふさがっている際に、走ってきた子どもに追突された経験があります。常識的には『親が弁償』というところでしょうが、法律・判例上は若干複雑なので解説します。
民法上の賠償責任は『自己の行為の責任を弁識するに足りる能力』を備えている者に発生し(712条)、判例上は概ね11歳~12歳以上の子どもにはこの責任能力があると判断しています。責任能力があれば子ども自身が賠償責任を負担し、監督者である親には原則として責任は発生しません。
ーー11〜12歳未満の子どもの場合には、どうなるのでしょうか。
「逆に子どもに責任能力がない場合には、監督義務者である親の責任となります(714条1項)。その際の法律上の要件は、『監督責任を怠っていない(適切に監督していた)又はその義務を怠らなくとも損害が発生した(不可抗力)』場合を除いて、広く監督者の責任を認めています。
そのため、監督者である親の実質的な無過失責任として捉えられますが、限定的に解釈する裁判例も出ています。
訴訟上は、原告(被害者側)は、親の監督不足を指摘する必要はなく、被告(親側)が『適切に監督義務を果たしていたこと』を証明しない限り、親は子どもの不法行為による損害賠償責任を負うことになるのです」
ーーどのような要件を満たすと、親側が「適切に監督義務を果たしていた」と言えるのでしょうか
「子の監督を適切に行ったかどうかは、一義的には決まりません。子どもの年齢、環境、生育度や普段の行動傾向、行為の内容及び具体的事故状況等との関係で判断されます。
大まかな傾向としては、年齢が上がるにつれ、個別の挙動の監督から一般的な躾で足りるようになります。一方で、普段から走り回るような子には細かい監督が必要になり、また、損害発生(権利侵害)の危険が高い状況下では監督義務も重くなります」
ーー今回のケースでは、どう判断されるのでしょうか。
「今回のケースは幼児(就学前)ですから、『公共の場では走り回らない』と伝える程度の躾では足りません。多数の人が購入済の食べ物を運んで行き来するフードコートという場所柄、『走り回る』という衝突の危険性のある行為自体を阻止する義務があります。また、投稿者が『注意してもきかなかった』とのことですが、普段から落ち着きのない子どもであったならば、親の監督義務も重くなります。
よってこのケースでは、投稿者は親にラーメン代を請求することが出来ます。
なお、今回のケースはラーメン代金に留まりましたが、子どもの行為によって重大な損害が発生する場合があります。子ども(事故当時、小学校5年生)の自転車衝突事故により被害者が要介護になってしまった裁判例では、親に9500万円の高額賠償を命じています。
親は子の監督責任があることを自覚し、普段から適切に監督注意すると共に、自転車運転や危険なスポーツの実施については、責任賠償保険の加入等についても検討するとよいでしょう」