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「AV業界、もっと女性が経営参画してニーズの把握を」脚本家・神田つばきさん(下)
神田つばきさん

「AV業界、もっと女性が経営参画してニーズの把握を」脚本家・神田つばきさん(下)

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アダルトビデオ(AV)出演強要問題が大きくとりざたされて以降、業界は厳しい風にさらされている。「ドラマ物AV」の脚本家の神田つばきさんは、弁護士ドットコムのインタビュー前半で、「業界まるごと消してしまったほうがいいという視線に困惑している」と話した。

一方で、神田さんは「解決するまで見守る責任は、AV業界の全員にある」とも話している。インタビュー後半では、神田さんが問題に背景にあると指摘する「差别問題」と、業界を変えるために必要なことについて聞いた。

●「女性が消費される側の社会は健全ではない」

――出演強要の背景をどう考えているか?

たとえば、米国のポルノには、性器にモザイクが一切ありません。「日本のAVも米国並みにならないものか」と考えている人は少なくないかもしれません。しかし、『ノーモザイク=無規制』ということではないのです。米国のポルノ映画の倫理基準は、日本よりはるかに厳しいと聞いたことがあります。

児童ポルノを想起させる表現はもちろん規制されますが、男女同権ということにも倫理基準がおよんでいます。日本のAVは女性が絶頂する姿をたっぷり映しますが、米国の場合、男性のそれも映すことになっているそうです。

日本の場合は、ただでさえ女性しか映していないのに、「男優のお尻が映った」と、ユーザーからお叱りを受けることもあります。男優の「イキ顔」を映すことなど考えられません。日本のAVは、もとより男性だけをユーザーとして作られているのです。

今回のような問題が起こる背景には、このような「消費構造」があるのではないかと考えています。

――「消費構造」とは、どういうことか?

日本において、「性の文化」は長い間、「男性が消費する側、女性は消費される側」と役割が固定されてきました。消費され続けるということは、「物のように見られてしまう」という危険をはらんでいると思います。

女性が、「性の客体」「被写体」「消費される側」にだけ置かれている社会は、健全な社会だとは思えません。少し想像してみてください。もし、ある国で『レストランに入って食事できるのは男性だけ、女性は給仕側』と決められていたら、どんなことが起こるでしょうか。

男性は次第に、レストランでは横暴に振る舞うようになっていくような気がします。そして女性にとっては、ウェイトレスであること自体が低い地位とみなされるようになるのではないでしょうか。

今のAV業界や性産業に起こっていることは、そういう差別の結果のように思えて仕方ありません。この消費の構造を変えないかぎり、また強要事件のようなことが起こるような気がします。

「エッチな文化は男のもの」と、女性である私でさえ無意識に思いこんでいます。この意識を変えていくことが、遠回りのように見えて、実はAV、そして「性の文化」を存続させる道なのではないでしょうか。

●「一人でも多くの女性の『性に対する思い』を聞きたい」

――業界はどうなっていくべきだと考えるか?

綺麗ごとでなく、業界で、女性が自立、自活できるようになることを望んでいます。そのような健全な力を持った産業になってほしいと思います。

もっともっと、女性同士で相談したり、アドバイスしたりできるようになれば、業界は自浄力をそなえた産業として、今より認知されるようになるのではないでしょうか。

そのためには、女優や監督としてだけでなく、経営側にも多くの女性が参画していくことが重要だと思います。もう一つは、女性がポルノに触れる場をつくり、女性のニーズを私たち女性制作者が把握することです。

女性が経営参画することと、女性のユーザー層を作ることは二つで一つです。女性のAVユーザーが大きくならないのは、女性が夢を見ることのできる作品がまだまだ少ないからなのかもしれません。

――最近では女性向けのAVも作られるようになってきている。

まだまだ、その数は少なく、市場を形成しているとはいえません。また、男性向けのようにジャンルが豊富にあるともいいがたいです。

つい先日、映画『怒り』を見ました。ネタバレになるのでくわしくいいませんが、私には一つの発見がありました。それは『ゲイシーン』の美しさでした。私はこれまでゲイにも、またBL(ボーイズラブ)にも特段の関心は持っていませんでした。

しかし、映画の文脈の中で見た男性同士の愛しあう裸体を、生まれて初めて美しいと感じたのです。その気持ちを具体的にいうと、泣きそうなんだけど涙は出ない、自分には手の届かないものに対する憧れがこみあげてきたのです。

「私も男性に生まれて、男性と愛し合いたい」

そう思うと、自分が少し自由な人間になったような、この年齢になっておかしいんですけど、愛の秘密を一つ知ったような気持ちになりました。男性がAVを見る気持ちが、少し理解できたような気もします。

「あの気持ちにもう一度浸りたい。単なるオカズカタログではない、心癒されるような、あるいは逆に深く刺激を受けるような、女性向けのAVを見たい」と切実に思うようになりました。

――神田さん個人はどうしていきたいのか?

私はもともと人見知りで、家にこもって原稿や台本を書いてばかりいました。ところが、一連の強要問題で、これまでにはなかったほど多くの女性と会い、話を聞くことになりました。同じ業界の人だけではなく、女性や子どもの問題に関わっている人、女性ユーザーなどもいます。

このことがきっかけになって、女性のための『性の文化』をみんなで模索していけたら、と新しい夢がふくらみますね。『黒船』のあとには『夜明け』がくるかもしれません。ひとりよがりな夢に終わらせないためにも、現在のアダルト作品に対して肯定的でない人たちもふくめて、一人でも多くの女性の『性に対する思い』を聞きたいと考えています。

(インタビューの前編はこちら)

・出演強要問題「小さなAV村に黒船がやって来た衝撃」脚本家・神田つばきさん(上)

https://www.bengo4.com/internet/n_5222/

(弁護士ドットコムニュース)

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