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経営陣の人事を議論する「指名委員会」を導入する上場企業急増、機能させるための課題
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経営陣の人事を議論する「指名委員会」を導入する上場企業急増、機能させるための課題

コーポレートガバナンス(企業統治)をめぐり、社長など経営陣の人事を議論する「指名委員会」を設置している企業が急増していると日本経済新聞に報じられた。指名委員会を導入した上場企業は5月17日時点で475社で、2014年の4倍になったという。

増加のきっかけは、2015年6月から運用が始まったコーポレートガバナンス・コードで、企業統治の強化が求められたことだという。

指名委員会には2種類あり、1つは「指名委員会等設置会社」がつくる指名委で、決定には法的拘束力があり、メンバーの過半数を社外取締役にする必要がある。もう1つは、任意で設けられる指名委で、法的な拘束力がなく、メンバーを開示する義務もない。この任意の指名委が、2014年の8倍弱の406社に急増しているそうだ。

任意の指名委は、最近、会長の辞任騒動で話題になったセブン&アイ・ホールディングスでも導入されていた。指名委を導入することは、どんなメリットがあるのだろうか。また、経営陣の意向に沿わないような決定をすることには、結構なハードルがありそうだが、指名委が機能するためには、どのようなことが課題になるのだろうか。鎌田智弁護士に聞いた。

●「委員会等設置会社制度」の導入がきっかけに

指名委員会の制度は、企業統治の実効性を確保しつつ、国際競争力の強化を図るため、2002年の商法改正によって「委員会等設置会社制度」が導入されたことに始まります。指名委員会は社外取締役が過半数を占め、株主総会に提出する取締役の選任・解任に関する議案の内容を決定する権限があります。

このため、社長(代表執行役)といえども、指名委員会から解任を申し渡されたら、株主総会の決議により、その地位を失ってしまいます。この制度下で同様に設置される「報酬委員会」、「監査委員会」とあいまって、社外取締役の権限が強化され、企業価値の向上とガバナンスの両方が図られることが期待されます。

ただ、指名委員会などの委員会に、取締役の任命や報酬の決定を委ねることについては会社にとって抵抗があることは否めません。このため、今なお多くの上場企業は、従来からある「監査役会設置会社」(経営を監視する監査役で構成される「監査役会」を置く形態)ですし、移行数が伸び悩む指名委員会等設置会社をしり目に、2014年の会社法改正で新たに創設された「監査等委員会設置会社」(取締役3人以上(過半数が社外取締役)で構成される「監査等委員会」を設置して、経営を監視する形態)へ移行する企業が一気に200社以上に上ったのです。そしてこれらの企業において、コーポレートガバナンス・コードの補充原則が求める企業統治の体制を充足させるため、任意の指名委員会を設置するところが急激に増えたのです。

任意の指名委員会は取締役会の諮問機関と位置づけられますから、その決定の拘束力は比較的弱く、経営陣にとっては、人事の透明性・公平性と経営の合理性のバランスをとりやすくなるメリットがあります。

●情報提供など、会社側の努力も不可欠

いずれの指名委員会についても、期待される役割を果たすことができるかどうかは、委員である社外取締役をどれだけ機能させられるかにかかっています。

まず何より、指名委員会の委員、つまり社外取締役の人選が重要です。取締役候補者の原案をつくるのはやはり会社の人事が分かっている執行役や社内取締役ですが、指名委員会がこれを追認するだけで終わるとしたらその職務を果たしていることにはなりません。他方、会社から示された原案に対して意見を言うには、業界やその会社の経営に関する相当の知見と能力が必要です。

一方で会社側の努力・工夫も不可欠です。日頃から社外取締役に十分な情報提供を行う、公式・非公式に将来の取締役候補者となりうる人物と会う機会を作る、重要な人事はすべて明らかにすることが求められます。

さらに、取締役会で密度の濃い議論をするために事前に事情説明を行う、取締役会の決議事項を重要な課題に絞るといったことも行い、社外取締役が十分な情報に基づいて正しい判断ができる体制と状況を整えていくことが重要です。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

鎌田 智
鎌田 智(かまた さとる)弁護士 鎌田法律事務所
上場企業の法務部長を務めた後、現在の事務所を開設。 企業内弁護士の経験を生かし、中小企業のビジネス法務に取り組む。

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