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中国で「OKAYAMA」「岡山」が商標出願された…岡山県が止めることは可能か?
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中国で「OKAYAMA」「岡山」が商標出願された…岡山県が止めることは可能か?

中国で「OKAYAMA」の商標が出願されたとして、岡山県が11月21日、中国の商標局に対して異議を申し立てたことが明らかになった。

報道によると、「OKAYAMA」の商標を出願したのは香港の会社で、このほかにも、「岡山」を示すローマ字や中国語で5件が商標登録されていることが確認できたという。岡山県は「中国の商標法で登録できない公知の外国地名」として中国の商標局に異議を申し立てた。すでに登録されている商標についても、登録の無効を求めるなどの対応を検討するという。

いまのところ県内企業とのトラブルなどは報告されていないというが、県内の企業が「岡山」という名称を、中国で商品・企業名に使えなくなる恐れがあると不安の声があがっている。

中国で日本の地名が商標として出願されたり、登録されたりした場合に、対処法はあるのか。中国の知財法務に詳しい遠藤誠弁護士に聞いた。

●中国で商標登録されると、どんな不都合が起きる?

「近年、中国では、外国の有名な地名や、地域ブランド名(特産品名)を、第三者が商標として出願・登録する事案が増加しており、大きな問題となっています。

例えば、過去には、『青森』等の地名や、『美濃焼』等の地域ブランド名が、中国の第三者により商標出願されていた事例が日本でも大きく報道されました」

遠藤弁護士はこのように述べる。日本の地名などが海外で第三者に商標登録されると、どんな不都合があるのか。

「将来、非常に困った事態が生じる可能性があります。例えば、『岡山』という地名を、箱や袋に印刷した岡山産白桃を中国に輸出・販売しようとしたとしましょう。

この場合、先に中国で果物について『岡山』を商標登録した第三者によって、中国での輸入・販売を差し止められたり、損害賠償を請求されたりするおそれがあります。

さらに、その商標登録者から、『岡山』商標を法外な値段で買い取るよう要求されるおそれもあります」

そもそも、地名を商標として登録することは認められるのか。

「中国の公衆に広く知られた外国の地名(『公知の外国地名』といいます)は、商標登録した特定の者だけが独占的に使用できるというのは不当であり、誰でも自由に使用できるようにする必要性が高いといえます。

そこで、中国の商標法は、『公知の外国地名』については商標登録を認めないという条文を置いています。この条文を根拠として、もし第三者に先に商標出願されたとしても、登録を阻止するために異議申し立てを行ったり、もし登録されたとしても、無効審判請求を行なったりすることが可能とされています。

例えば、以前、中国で第三者が『青森』を商標出願した事件がありましたが、青森県の関係団体等が異議申し立てを行ったため、登録を阻止することができました。

『OKAYAMA』『岡山』の場合も、異議申し立てや無効審判請求を行うことにより、第三者による商標登録を阻止し、また、商標登録を無効とすることができる可能性はあります」

●どうすれば「公知の外国地名」と認めてもらえる?

どんな場合、『公知の外国地名』だと認められるのか。

「『東京』『京都』『北海道』等は、中国の公衆に広く知られた外国の地名であるといえることは確実です。

しかし、日本の都道府県名がすべて、中国の公衆に広く知られた外国の地名であるとは限りません。このことは、日本人の多くが中国の省の名前を全て知っているわけではないことと同じです。

『OKAYAMA』『岡山』の場合、異議申立て等の手続において、『OKAYAMA』『岡山』という地名が、中国の公衆に広く知られた外国の地名であるといえることを主張し、そのことを示す証拠をできるだけ多く提出する必要があります。

例えば、岡山県の観光地・特産品・イベント・事件・有名人等が中国人にもよく知られており、そのため『OKAYAMA』『岡山』が中国の公衆に広く知られた外国の地名となっていると主張するとしましょう。

その場合は、それらの観光地や『OKAYAMA』『岡山』などの文字が掲載された中国の新聞や雑誌の記事のコピーを証拠として提出することになります。

最近は、多数の中国人観光客が岡山後楽園等の観光地を訪問しているようですので、中国の観光ガイドブックやウェブサイトで岡山後楽園等の観光地が紹介されているものが証拠になります。

また、岡山県は中国の江西省と友好交流協定を締結しており、岡山市は中国の洛陽市と姉妹都市提携していることから、中国で各種行事を実施したこと等を報道した中国の新聞のコピーも証拠に含めることができます。証拠は1つや2つでは足りず、できるだけ大量の証拠を提出する必要があります。

一般論として、中国では、「岡山」のような漢字名は中国人にも覚えてもらいやすいですが、『OKAYAMA』のような日本語読みのアルファベット名は中国人には覚えてもらいにくいという面があります。

ちなみに、『岡山』という漢字は、中国語では『GANG SHAN』と読みます。このように、『岡山』という漢字の地名は中国人の間で比較的よく知られた地名であると比較的いいやすいとしても、『OKAYAMA』の方は少し苦しいかもしれません。

『OKAYAMA』『岡山』以外にも、日本の数多くの県名、都市名、特産品名等が、中国で第三者により商標出願・登録されているのが現状です。

もし、このような問題が発見された場合には、簡単にあきらめるのではなく、何らかの法的手段をとることができないか等につき、法律専門家に相談する等して十分に検討する必要があるといえるでしょう」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

遠藤 誠
遠藤 誠(えんどう まこと)弁護士 BLJ法律事務所
1998年弁護士登録。2006~2011年、北京事務所に駐在。2013年に、大手の法律事務所から独立し、「ビジネス・ローの拠点」(Business Law in Japan)となるべく、BLJ法律事務所を設立し、現在に至る。中国等の外国との渉外案件・知財案件を中心とする企業法務案件に従事。「世界の法制度」の研究及び実践をライフワークとしている。

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