小説や音楽などを保護する「著作権」をめぐるルールが大きく変わることになりそうだという報道が、大きな波紋を広げている。
著作権は、作品を独占的に利用する権利のこと。日本では、著作者の保護と著作物の公正な利用という2つのバランスをとって、「著作権が保護されるのは作者の死後50年まで」と決まっている。ところが、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の場で、米国が「作者の死後70年間」への延長を要求。日本・カナダなど半数の国が反対していたが、ここに来て「保護期間の延長」の方向で調整に入ったというのだ。
このように、保護期間が延長されることになれば、小説や音楽を愛する一般の人たちには、どんな影響があるのだろうか。また、日本経済への影響は? 著作権問題にくわしい福井健策弁護士に聞いた。
●過去の作品が「死蔵」される可能性が高まる
「日本では、著作権の保護期間延長に、根強い反対意見があります。なぜかといえば、延長しても、ごく一部の米国企業を利するだけで、大多数の作品はかえって死蔵される可能性が高まるからです」
福井弁護士は、こう切り出した。どうしてそうなるのだろうか?
「世の中には素晴らしい作品が数多くありますが、公表から時間が経っても市場で流通するのは、ほんの一握りの人気作に過ぎません」
逆にいうと、ほとんどの作品は、時間が経てば流通しなくなるわけだ。
「しかし最近では、デジタル化の進展により、過去の膨大な作品を低コストで全世界の人々に届けることが可能になりました。
もっとも、著作者の死後に相続人を探し出して利用の許可を取るのは大変な作業で、数十万という作品についてそれを行うのは、現実には不可能です。
そのため従来、ネット上のデジタル図書館『青空文庫』などで大規模に活用されるのは、著作権の切れた作品が中心でした」
●日本経済への「悪影響」も・・・
「著作権の保護期間延長が繰り返されれば、こうしたデジタル化作業が停滞し、豊かな文化を共有することが難しくなるでしょう。また、日本の教育や研究、経済にも悪影響を及ぼすことが心配されています」
日本経済への影響というのは、どんなことだろうか?
「米国には、ミッキーマウスやくまのプーさんなど、古い作品の著作権収入で膨大な利益を挙げている企業があります。米国はそれゆえ、他国にも延長を求めているのですね。
一方、いまの日本はコンテンツの大輸入国で、著作権使用料だけで年間6000億円以上の赤字を生み出し続けています。
日本のマンガやアニメが海外でも人気であることから、期間延長によって輸出が伸びるのではないかと誤解をする方がいるようですが、海外で強い日本作品はアニメなど新しいものなので、保護期間を延長しても赤字額が拡大するだけです」
福井弁護士は「保護期間延長の悪影響は、文化面や経済面のさまざまな側面で指摘できます。軽々に期間延長をのめば、情報立国にとって、取り返しのつかない禍根を残す可能性があります」と指摘し、「豊かな文化の創造と人々のアクセスを守るためには、現在ヤマ場の期間延長問題に注視が必要でしょう」と締めくくっていた。