本人が拒んでいても「契約」が成立する場合がある——?
NHKの受信契約をめぐる裁判で、横浜地裁相模原支部は6月27日、「契約を命じる判決によって、受信契約が成立する」という判断を示した。裁判所がこのような判断を示すのは、これが初めてという。
この裁判は、NHKが神奈川県の男性に対して受信契約を結ぶように何度も要請したが拒まれたため、契約と受信料の支払いを求めて提訴したという内容。男性は「テレビが壊れていた」と主張したが認められず、裁判所は男性に対して、2009年2月〜13年1月までの受信料10万9千円の支払いを命じた。
たしかに放送法では、テレビ(受信機)を設置していれば受信契約をしなくてはならないと決まっている。しかし、契約とは本来、当事者の自由な意思によって結ばれるものだ。
このように、本人の意思に反して義務を課すことを、「契約」と呼んでいいのだろうか。ほかにも、同じようなケースはあるのだろうか。山内憲之弁護士に聞いた。
●法律で契約を強制するのは、極めて例外的
「『判決によって受信契約が成立する』という理屈を、おかしいと感じる方も多いと思います。自分はNHKと受信契約をした覚えがないのに、裁判所が代わりに受信契約を結んだことにするというのですから」
――根拠はどこにあるのか?
「民法414条です。そこでは、債務を履行しない人に対し、裁判所が強制的にやらせる際のルールが定められています。債務というのは、法律的な義務のことで、典型的には借金ですね。ようは、『借りた金を返したくない』という人に対して、強制的に支払わせるような場合の決まり事です」
――今回に当てはめると?
「今回の債務はお金ではなく『契約をするという義務』です。具体的には、放送法上の『テレビを置いておけば、NHKと受信契約しなければならない』という義務ですね。
契約のような『法律行為を目的とする債務』を強制させる場合は、『裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる』(414条2項のただし書き)と決まっています。つまりは判決が、契約の意思表示の代わりになるということです」
――そういった例は、よくあること?
「いえ、法律で契約を強制されるというのは、極めて例外的な事態というべきです。私たちには自由意思がありますからね。
似たケースとしては、東日本大震災で注目された『原子力損害の賠償に関する法律』がありますね。この法律には、原子力事業者は、必ず損害保険契約をしておかなければならないという定めがあります(7条)。万一原発事故で、多額の賠償が発生した場合にも、事業者が着実に支払うよう備えさせるという点で、その趣旨は理解できます」
――NHKの受信契約には、どんな正当性があるのか。
「私たち視聴者に受信契約を強制してまで、NHKを存続させる意味があるのか。この点については人それぞれの考え方があるでしょう。
ただ今回、改めてこのような判決が出たわけです。NHKとしても今後いっそう、この判決や放送法に恥じない番組づくりをしていってほしいと願います」