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無線LAN「ただ乗り」無罪判決→総務省「違法の場合もある」…結局、どっちなの?
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無線LAN「ただ乗り」無罪判決→総務省「違法の場合もある」…結局、どっちなの?

隣の家に設置された「無線LAN」のパスワードを解読し、無断でインターネットを利用したとして、電波法違反などの罪に問われた男性に対して、東京地裁は4月下旬、電波法違反について無罪とする判決を下した。この判決は確定したが、総務省が「違法になる場合もある」という見解を公表したことから、ネット上ではちょっとした混乱が生じている。

●結局、どっちなの?

報道によると、東京地裁は「無線LANのパスワードは、暗号化された情報を知るための手段にすぎず、無線通信の内容とはいえない」として、電波法違反について無罪を言い渡した。ただ、無線LANを無断利用したうえで、不正に取得した情報を使って、銀行のサーバに侵入した不正アクセス禁止法違反については有罪(懲役8年)とした。

一方で、総務省は5月12日、パスワードを解読する際などに、他人のパソコンと無線LAN機器の間での通信を傍受して、そのデータをコピーして、無線LAN機器に繰り返し情報を送信する行為は、電波法違反にあたるとの考えを示した。

近年広く普及している「無線LAN」だが、パスワードをかけていなかったり、解読されやすい方式のために「ただ乗り」される可能性はある。今回の判決と総務省の見解発表を受けて、ネット上では「結局、どっちなのか?」という声もあがっている。インターネットの法律にくわしい伊藤雅浩弁護士に聞いた。

●「通信の秘密」は保護されている

「今回の事件で注目されたのは、無線LANの『ただ乗り』部分が、電波法109条に定められた『無線通信の秘密』の窃用にあたるかどうかという点です。

東京地裁は、無罪だと判断しましたが、『ただ乗り』したうえでおこなった行為が、ほかの刑罰法規に触れたということには留意する必要があります」

伊藤弁護士はこのように述べる。「ただ乗り」は「通信の秘密」の窃用にあたるのだろうか。

「憲法は『通信の秘密は、これを侵してはならない』と定めています(憲法21条2項)。これを具体化した規定として、電気通信事業法4条、電波法59条などが定められています。ここでいう『通信の秘密』には、どこまでが含まれるのかというのが、今回の論点です。

『通信の秘密』を保護する理由は、プライバシーその他の私生活の自由を保障し、自由なコミュニケーションを確保することにあります。

『通信の秘密』には、通信の内容(電話でいえば会話の内容であったり、インターネット通信でいえば、送受信されているデータの内容)だけを指すものではなく、通信の存在も対象に含まれるとされています。

たとえば、電話料金の請求書に記載される情報の(1)通信当事者の氏名等、(2)通信の日時、(3)場所、(4)回数なども通信の秘密に含まれるとした裁判例があります(東京地裁平成14年4月30日判決。ただし、電気通信事業法の事件)」

●「個別に法規制を設けることを議論すべき」

今回の事件では、暗号鍵が『無線通信の秘密』にあたるとして起訴されたようですが、通信の内容ではないことはもちろんのこと、通信の内容を知るための手段・方法にすぎないから対象ではないと判断されたようです。

一方、総務省は、暗号鍵を調べるためにおこなわれるARPパケットの傍受行為が、『通信の秘密』の対象になると主張しています。しかし、相手方ではなく、アクセスポイントと端末機器との間で行われる通信が「通信の秘密」の対象になるかというと、疑問もあります。

総務省は、法律への当てはめや構成を工夫することによって無線LANの『ただ乗り』を電波法違反にあたると考えているようです。しかし、刑罰法規の明確化のためにも、一定の行為類型を特定したうえで個別に法規制を設けることを議論すべきかと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

伊藤 雅浩
伊藤 雅浩(いとう まさひろ)弁護士 シティライツ法律事務所
工学修士(情報工学専攻)。アクセンチュア等の約8年間コンサルティング会社勤務を経て2008年弁護士登録。システム開発、ネットサービス等のIT関連法務を主に取り扱っている。経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」研究会メンバー。

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