弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. 労働
  3. 毎月5000キロ走行、26歳男性が突然死…労災認められず 遺族「労基署に絶望」
毎月5000キロ走行、26歳男性が突然死…労災認められず 遺族「労基署に絶望」
秋山直人弁護士(左)、川人博弁護士

毎月5000キロ走行、26歳男性が突然死…労災認められず 遺族「労基署に絶望」

厚生労働省が全国に設置する労働基準監督署が、労災認定をする際、本来認めるべき時間を「労働時間」と認めない事例が目立つようになったとして、「過労死弁護団全国連絡会議」の幹事長を務める川人博弁護士や遺族が3月11日、東京・霞が関の厚労省で会見を開いた。

出張先のビジネスホテルで急死した若い男性の父は「労基署の不当な判断で絶望している」。亡くなる2日前の労働時間は、遺族が主張した時間から10時間近く少ない「4時間19分」との認定。労災認定されなかったことを不服として今後、異議申し立てをする方針。

●東京ー名古屋間、月平均で約7.5回往復

代理人の秋山直人弁護士によると、男性は外国製大型クレーン車の販売営業をする勤続4年目の正社員(当時26)。出張先の三重県内のホテルで2016年5月19日、心停止で急死した。部下がいない名目上の係長職で、山形県から三重県にわたる12県を担当していた。

毎週月曜、午前7時から横浜市内の本社である会議に出席し、その後は金曜まで社有車で各地の営業先をまわり、夜はビジネスホテルに宿泊。金曜の業務終了後に、横浜市内の自宅に帰るというパターンでおおむね働いていた。

社有車のETCカードに残った記録やホテルのチェックイン時刻などをもとに、代理人が男性の残業時間を集計したところ、亡くなる2カ月〜6カ月前の平均が80時間を超え、100時間を超える月も複数あった。「過労死ライン」を超える水準だ。

さらに、男性が亡くなる前の直近7カ月に社有車を運転した距離を集計すると、月平均で5313キロ、東京ー名古屋間を高速道路で走った距離に換算すると、月平均で約7.5回往復していた計算になったという。

移動中もハンズフリーのイヤホンを装着し、取引先や上司との電話のやりとりもしていた。秋山弁護士は「業務は精神的緊張を伴うものだった。被災者(男性)は疲れた、眠いが口癖になっており、いつも目覚まし時計を3個セットしてようやく起きていた」と指摘した。

●「事業主の指揮監督下にあったとは認められない」

一方、労基署の認定はどうだったのか。

鶴見労働基準監督署では、「事業主の指揮監督下にあったとは認められない」という理由で、自宅やホテルから取引先に社有車で移動する時間や、取引先から自宅やホテルに移動する時間を「労働時間ではない」と判断。代理人に対して、その旨説明したという。

労基署が認定した残業時間で見てみると、亡くなる2カ月〜6カ月前の平均は80時間にはほど遠く、100時間超の月もまったくないことになっていた。

代理人が労基署との判断の差があまりにも大きいと主張する日のうち、亡くなる2日前の5月17日を例に具体的にみてみる。

火曜だったこの日、男性は自宅近くの日野インターチェンジ(IC、横浜市内)を7時半に通過し、静岡県富士市の取引先を9時41分ごろに訪問。取引先を14時ごろに出て、愛知県を通過し、19時ごろに三重県鈴鹿市内のホテルにチェックインした。

その後の20時49分、会社に業務上のメール送信をし、ノートPCに残った記録から21時28分に終業したことがわかる。このため「13時間58分」が正しい労働時間だと主張している。

ところが、労基署は富士市の取引先に着き、そこを出るまでの「4時間19分」だけを労働時間だと認定。その前後の移動時間を、労働時間だとは認めなかったという。

男性は翌18日は三重県内の取引先をまわり、四日市市内のホテルにチェックイン。19日未明にホテル内で心停止により急死した。

●「労基署が踏み込んだ調査せず」

秋山弁護士は、男性が会社貸与の携帯電話などをもちいて会社に連絡・報告を随時行っていることなどから、取引先への移動中も事業主の監督下にあったことは明白だと指摘。

「多数の送信メールなどから働いていたことが証拠上認められるのに、労基署が踏み込んだ調査もせず、自宅やホテルでの労働時間を一切認定しなかったことも不当だ」としている。

●厚労省本省に説明求める

この4月からは、違反した場合に刑事罰を伴う残業時間の規制が始まる。

川人弁護士は「実態として社屋外のオフィスや自宅、喫茶店で仕事ができ、社屋外の労働が増えている。そのことを踏まえて労働時間規制を考えないといけない。外回りが多い人の労働時間が否定され、倒れても労災の対象にしないとなってしまうのはおかしい」と語った。

そのうえで、全国の労災事例の情報に接している感触として、「ここ1カ月くらい」で明らかに労働行政の変化を感じるとも述べた。

「今回のような、社用車で自分が運転して移動するということの労働者性を否定するのは理解できない」と川人弁護士。今後、過労死弁護団全国連絡会議として厚労省本省に対し、説明を求めるなどの活動をしていくとした。 (弁護士ドットコムニュース)

オススメ記事

編集部からのお知らせ

現在、編集部では正社員スタッフ・協力ライター・動画編集スタッフと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

正社員スタッフ・協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする