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21時間勤務後に帰宅中の事故死、会社の責任認める…訴訟の和解成立、原告側「画期的」
記者会見で話す航太さんの母淳子さん

21時間勤務後に帰宅中の事故死、会社の責任認める…訴訟の和解成立、原告側「画期的」

商業施設の植物設営、装飾などを行う「グリーンディスプレイ」(東京都世田谷区)の従業員だった渡辺航太さん(当時24歳)が、バイクで帰宅中に事故死したのは過重労働が原因として、遺族が同社に約1億円の損害賠償を求めた訴訟は2月8日、横浜地裁川崎支部(橋本英史裁判長)で和解が成立した。

同社は責任を認めた上で謝罪し、11時間のインターバル規制や仮眠室設置、深夜タクシーチケット導入など7つの再発防止策を実施。遺族に解決金約7591万円を支払う。

原告側代理人の川岸卓哉弁護士によると、訴えていたのは航太さんの遺族。航太さんは大学卒業後の2013年10月、同社でアルバイトとして働き始め、14年3月からは正社員となった。同年4月24日、前日午前11時から約21時間にわたる徹夜業務を終えて、原付バイクで横浜市から八王子市の自宅へ帰宅していたところ、午前9時ごろに電柱に衝突して亡くなった。

航太さんは事故の1か月前には約91時間の時間外労働を行っていた。深夜や早朝も含む不規則な勤務で、公共交通機関が使えなかったため、会社も原付バイクによる通勤を容認していたという。

●「過労死、過労自殺に並ぶ労働災害の事故」

「画期的であり異例の和解決定だ」。和解後に厚労省記者クラブで開かれた記者会見で、川岸弁護士はそう強調した。

「画期的」とするポイントの一つは、帰宅途中の交通事故について会社の責任を認めたことだ。過労による通勤途中の事故で会社の責任(安全配慮義務)を認めた事例では、「鳥取大学医学部附属病院事件」(鳥取地裁平成21年10月16日判決)があるが、ここでの事故は勤務していた大学病院からアルバイト先の別の病院への移動中に起きた。

一方、航太さんの場合は自宅への帰宅となる。川岸弁護士は「純粋な帰宅について、通勤労災以上に会社の責任(安全配慮義務)が認められた例はほとんどない。これは和解勧告ですが、裁判所の判断を前提としたものであり、判決と同じように先例となりうる」と指摘した。

和解勧告書では、航太さんのような過重労働による事故死について「裁判例においても先例が乏しい」と指摘し、今回の裁判所の判断が公表されることについて「過労事故死を防止する社会的契機となり、同種の訴訟に置ける先例となり、これらの価値と効果は高い」とした。

さらに「過労死、過労自殺に並ぶ労働災害の事故として、過労事故死の類型が潜在的にあり、本件事故がその氷山の一角であるとすれば、本件事故の先例としての意義は高いと言い得よう」とし、「裁判所の判断の内容は社会規範にもなり得るもの」としている。

航太さんのような過重労働による事故死は、過労死等防止対策推進法が対象とする過労死には含まれていない。川岸弁護士は「過重労働による事故死の調査を進めてもらい、国には対策すべき過労の類型として求めていきたい」と話した。

●「過労死をなくすための裁判所の声明だ」

また、40ページにわたる和解勧告書では、過労死防止対策白書や電通の過労自殺事件など過労死をめぐる社会情勢にも触れられた。和解内容が今後、法律・判例雑誌へ掲載されることについても互いに同意している。

これについて川岸弁護士は、「和解勧告は口頭で行われ書面も作られないことが多いが、公開法廷で和解勧告書の要旨を30分にわたって読み上げた。これは過労死をなくすための裁判所の声明であり、司法の良心が覚醒した」と話した。

会見に同席した航太さんの母淳子さんは、「私は過労死のある日本社会を恥ずかしく思います。人間の限界を試すような働き方で、生産性を上げていくという考え方は間違っています」といい、再発防止策について「命を守るためにこれくらいのことはどこの企業もやらなければならない。息子が選んだ会社なので、模範になってほしいという期待を持って見ていきたい」と話した。

(弁護士ドットコムニュース)

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