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妻に遺した言葉「俺に何かあったら訴えろ」東日本大震災後に過労死、遺族が提訴
神奈川県庁で会見する男性の長男

妻に遺した言葉「俺に何かあったら訴えろ」東日本大震災後に過労死、遺族が提訴

2011年8月に岩手県奥州市の金型設計会社に勤務していた係長の男性(当時51)が亡くなったのは、会社側が安全配慮義務を怠ったためだとして、遺族が11月16日、当時勤務していた会社と当時の役員3人に約6482万円の損害賠償を求め、横浜地裁に提訴した。

男性は生前、「この会社はおかしい。俺になんかあったら訴えていい」「(係長になった後で)係長という役職はいらない。普通の社員でよかった」などと妻に訴えていたという。

●東日本大震災後、さらに忙しくなった業務

訴状などによると、男性は1989年に入社。2007年には営業技術係長に就任し、営業の仕事や部下の指導を担当していたほか、取引先の開拓で東北各県に頻繁に出張していた。2011年3月に発生した東日本大震災後は、ガソリン不足のため社長や社員の送迎などを行い、沿岸部にある取引先の安否確認に追われた。

2011年8月、家族がトイレでぐったりしている男性を発見。すぐに救急車で搬送されたが、翌日朝に脳幹部出血のため亡くなった。男性は前日夜まで普段通り仕事をしていたという。

男性は給与明細などで記録が残っている2002年以降、月60〜80時間の時間外労働を繰り返していた。死因となった脳幹部出血発症1〜6ヶ月前の時間外労働は月50〜111時間にのぼり、花巻労基署が2012年7月に労災認定した。

提訴後に神奈川県庁で記者会見した男性の長男(20代)は、「長時間労働は自分が小さい頃からだったので、当たり前と思っていたが、週一でしか夕飯を一緒に食べられなかったのは今思うと異常なことだと思う」と振り返った。

●支払い拒否のために偽装倒産?

男性が当時勤務していた「サンセイ」は男性の労災認定5か月後に解散し、土地建物を当時の社長が代表を務める別会社に譲渡している。そのため遺族は、「会社は損害賠償の債務を負っており、法人格は消滅しない。会社を解散することで損害賠償を行うことを困難にした」として、詐害行為取消等の請求も同時に起こしている。

遺族代理人の指宿昭一弁護士は、「(別会社との)売買の代金が支払われたかすら疑わしい。賠償責任を逃れるために、別会社に財産を移したように非常に巧妙な資産隠しをしているのではないか」と話した。

●会社は過労死を否定、謝罪も一切なし

また、遺族が労災申請する際、会社側は「『死因は過労によるものと思われる』の記述に関しても、このような結果につながった原因としては、生活習慣または年齢的な部分もあったのではないかと考えております」とし、遺族補償年金支給請求書にサインをしなかったという。

会見に同席した男性の長男(20代)は、「労災認定されたのにも関わらず、謝罪も説明も一切なかった。会社は何一つ責任を取っていない」と訴えた。

(弁護士ドットコムニュース)

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