社会問題となって久しい「パワハラ」。労働者の生産性を低下させ、退職に追い込むこともあれば、ひどい場合には自殺に追い込んでしまう。この「パワハラ」に対し、現在、政府が法規制の導入を検討していると産経新聞が報じている。
労働者側から法規制導入の声があがったため、罰則を含めた法規制の導入が検討され始めたというが、何が「パワハラ」となるかは受け止める人によって異なり、一概に線引きできない難しさもあるだろう。
海外では「パワハラ」に対して刑事罰を科す国もあるというが、日本において法規制はうまく機能するのだろうか。労働問題に詳しい今泉義竜弁護士に聞いた。
●望まれる「法規制」とは
「現状において、もしパワハラ被害にあった場合、被害者は加害者に対して治療費や慰謝料などの損害賠償請求をすることができます。暴行や傷害、強要といった犯罪行為があれば、加害者を刑事告訴することもできます。事業主に対しても、使用者責任の追及や職場環境調整義務違反を理由として損害賠償請求することも可能です。
ただ、パワハラ規制を目的にした法律はありません。パワハラが横行する現在、法律による規制の必要性は強まっているでしょう」
具体的に、どのような法規制となるのだろうか。
「パワハラに対する法的規制として、まずパワハラを法律上定義づけることです。その上で、事業主に対してパワハラ根絶のための方針策定や相談窓口の設置、適切に対処するための体制整備、被害者に対する適切な対処を義務付けるという方法が考えられます。
均等法で定められているセクハラについての法的規制の考え方をパワハラにも応用することは十分可能と思われます。
一方、私が事件でよく遭遇するのは、組織ぐるみのパワハラです。
意味のない反省文の提出要求や出向・転籍、降格処分といった人事上の措置を装ったパワハラも散見されます。パワハラの加害者がハラスメントの窓口になっていたり、ハラスメントを相談した途端にさらにパワハラが熾烈になったりするというケースも実際には多いのが現状です。企業任せにしていてはパワハラをなくすのは困難です」
●ストレスを抱えた労働者が「加害者」となるケースも
そこで、今泉弁護士は次のように提案する。
「第三者機関の利用をしやすくする制度設計、行政機関による指導・勧告、企業名公表、刑事罰の強化など事業主に対する制裁メニューを強化した上で、そのような措置を迅速にできるような体制の整備も必要です。
もっとも、パワハラが横行する土壌には根深いものがあると思います。人手が足りず、その中で成果を求められ、長時間労働を強いられた結果、ストレスを抱えた労働者が加害者となるケースも多いでしょう。
パワハラを根絶するためには、長時間労働の実効性ある規制などを含め、一人ひとりの労働者を保護する観点からの総合的な施策が必要だと思います。その意味では、残業代ゼロで労働者をより過酷な競争へと追い込む労基法改正案を含む『働き方改革』一括法案は、パワハラを生む土壌をなくすという観点からは、逆行する施策であると考えます」