妊娠や出産、復職から「1年以内」の降格や契約打ち切りなどの不利益な取り扱いは、男女雇用機会均等法などに違反するとして「違法」ーー。厚労省が3月27日、全国の労働局にあてて、そんな通知を出した。
昨年10月、最高裁が、妊娠中に負担の少ない業務に移ったことをきっかけに降格させることは、原則として「違法」との判断を示した。それを受け、厚労省は今年1月、全国の労働局に対し、女性が降格や解雇など不利益な取り扱いを受けた場合、「その前に妊娠や出産をしていれば、原則として因果関係があると認める」との通達を出していた。
なお、「本人の能力が低い」などの理由をつけても、1年以内の降格は違法とされる。
●降格が労働者の「自由な意思」によるものであれば適法
しかし、なんらかの事情から復職後に「降格したい」という労働者もいるだろう。その場合でも、違法となってしまうのだろうか。労働事件にくわしい今泉義竜弁護士は次のように解説する。
「最高裁判決とそれに続く厚労省通達は、妊娠・出産、育休等をきっかけとして使用者が降格を行った場合に、原則としてその降格を違法とするものです。もっとも、例外として適法になる場合を2つだけ認めています。
1つ目は労働者が『自由な意思』で降格を承諾したと認められる場合。2つ目は、経営状況などにより業務上の必要性が強く、それが労働者の受ける不利益を上回るような特別な事情がある場合です。
労働者が降格を希望する場合は、それが『自由な意思』によるものと認められれば1つ目の例外にあたり、違法とはなりません」
●「降格してほしい」という希望が「自由な意思」に基づくかどうか
では「違法」とされるのは、どんなケースだろうか。
「労働者が希望した場合であれば、常に『自由な意思』によるものと認められるわけではありません。『自由な意思』によるものかどうかは、客観的な状況から判断されます。
たとえば、勤務の軽減と降格はセットであると使用者から説明を受けていた結果として、労働者が勤務軽減を受けるために降格を希望した場合には、それは『自由な意思』によるものと認められないこともあります。
育児・介護休業法では、時間外労働の制限、深夜業の制限、勤務時間の短縮措置などが使用者に義務付けられており、降格に同意しない限り、それらの権利が保障されないというのは、本来おかしなことだからです。
そのような使用者の誤った説明を鵜呑みにして、労働者が降格を希望した場合には、『自由な意思』によるものとは認められず、違法となる可能性があります」
●「降格」ではなく「異動」の場合はどうか?
ところで、長期にわたる海外出張や深夜残業が頻繁にある部署で妊娠した場合、出産後は、その仕事を続けることを望まない人もいるだろう。降格ではなく『異動』も認められないのだろうか?
「『異動』であってもそれが減給などの不利益をともなうものであれば、原則として禁止されます。しかし、海外出張や深夜業務が業務の性質上不可欠となる部署から、別の部署へ異動させることについては、異動に伴う待遇面での不利益がさほど大きくなく、労働者の希望も踏まえてなされたものであれば、『適法』と判断されるでしょう」
今泉弁護士は、このように述べていた。