「部内婚を予定していますが、それを理由に異動を迫られています」。こんな悩みが、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに寄せられた。相談者は技術職で、会社の部署は職種ごとに分かれている。そのため、別の部署への異動は「職種変更」を意味するという。
所属部署の上司は「夫婦が同じ部署にいても問題ない」という考えのようだが、社長が「部内婚」に否定的で、結婚したら部署外に異動という方針を示されたのだという。雇用契約上、異動先に制限はない。ただ、部内婚の異動についての規定があるわけでもないという。
社長からすれば、夫婦のどちらかを異動させることで「公私混同」を避ける狙いがあるのかもしれない。しかし、同じ部署の社員と結婚することを理由に異動を命じることに、法的な問題はないのだろうか。鈴木謙吾弁護士に聞いた。
●夫婦と職場が受ける不利益の「バランス」の問題
「非常に微妙な内容ですので、理解しやすい例で考えていきましょう。まず、部内で結婚することを理由に『解雇』や『退職勧奨』を実質的に強制された場合には、法的に極めて問題があります。
また、夫婦のどちらかではなくて、たとえば女性のほうだけを形式的に異動させる場合は、男女雇用機会均等法の問題に該当しうるでしょうね。
さらに、異動といっても、従業員に大きな不利益をもたらす降格人事に等しい対応であれば、権利濫用として認められない可能性が高いでしょう」
では、降格ではない「横すべりの異動」の場合はどうだろうか。
「従業員にとって大きな不利益がない異動となると、非常に悩ましいですね。会社は正当な人事権を有しています。そして、適切な異動人事は、当然許されています。しかも、同じ部署内に夫婦がいるとなると、多少なりとも他の従業員に影響が出ます。
そうなると、会社が一方的に異動を通告することは問題になりません。その前に、その夫婦が受ける不利益と、周囲の従業員が受ける不利益の問題を、天秤にかけなければなりません」
●どの部署に変わるのかが最大のポイント
ただ、今回のケースでは、部内婚の異動についての規定があるわけではないようだ。これをどう考えるべきだろうか。
「部内婚の異動の規定がないことが人事権の裁量の範囲を超えているといえる場合、手続違反を理由にして、そのような異動は認められないという結論もあり得るでしょう。
しかし、技術職で入社しているとはいえ、雇用契約で異動先に制限がないことは、従業員としても理解していたはずです。
つまり、手続的な側面においても、どちらか一方だけに非があるというわけではなく、そのバランスの問題に落ち着きそうです」
同じ異動といっても、今回は、職種までが変わってしまう。働く者にとって、この影響は大きい気がするが・・・
「今回の相談事例は、技術職からどの部署に変更になり、職種がどのように変わってしまうかが、最も大きなポイントになりそうです。
詳細な事実関係を確認しなければ確定的な回答はできませんが、一般論としては、極めて懲罰的な人事でない限り、他の従業員への影響を優先して相当な部署へ異動させることには、正当性があるように感じます」
鈴木弁護士はこのように話していた。