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「暴れる患者」に蹴られて看護師が流産 「危険な病棟」を担当させた病院の責任は?
小さないのちが失われたときの母親の悲しみは、計り知れない。

「暴れる患者」に蹴られて看護師が流産 「危険な病棟」を担当させた病院の責任は?

患者の暴力によって流産してしまった――。そんな女性看護師の悩みがネット掲示板に投稿されていた。投稿したAさんは25歳の看護師で、脳に障害を負った人が入院する脳外科病棟の担当だった。患者が暴れることも多いため、妊娠4週目であることが判明するとすぐに上司に報告し、配慮を求めたという。

しかし、上司は「妊娠は病気ではない」「私も妊娠中、普通に働いていた」などと言って、まともに取り合ってくれなかった。Aさんは重症患者が多い病室を任されたうえ、暴れた患者にお腹を蹴飛ばされて、切迫流産(流産の危険が迫っている状態)と診断されたという。その後「赤ちゃんだめだった」という投稿があったことからすると、結果的に流産となってしまったようだ。

Aさんは「私の旦那も師長に対して怒り狂っていますし、民事にもっていきたいとまで言ってます」と書いている。こうしたケースで、看護師は「病院側の責任」を問うことができるのだろうか。労働問題に詳しい和氣良浩弁護士に聞いた。

●病院には「安全配慮義務」がある

「『労働者』である看護師さんから見ると、病院は『使用者』です。使用者は『労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする』(労働契約法5条)とされています。これを安全配慮義務といいます。

この安全配慮義務に違反した使用者は、その結果として労働者が被った損害を賠償しなければなりません」

和氣弁護士はこう述べる。今回のケースに当てはめて考えると、どうだろうか?

「Aさんは、脳外科という精神的に不安定な患者を担当する病棟で働いていて、しかも過去に患者さんが暴れることが多くあったということです。こうした場合、使用者である病院側は、看護師の身体に危害が及ぶことを回避・抑制する義務を負っています。

妊娠4週目は、母胎にとって最も安静にすべき重要な時期です。Aさんからその事実を告げられた病院側は、安全配慮義務として、Aさんの身体に危害が加わる危険性が最も少ない病棟・病室を担当させる義務を負っていたと認められます」

今回のようなケースだと、病院は安全配慮義務に違反したことになるのだろうか?

「病院側は、こうした危険性が極めて高い病室をAさんに担当させたのですから、安全配慮義務に違反していたことは明らかです。

Aさんは、患者から暴力を振るわれ、流産してしまったことについて、『病院側の責任』を問えるといえるでしょう」

和氣弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

和氣 良浩
和氣 良浩(わけ よしひろ)弁護士 弁護士法人ブライト
平成18年弁護士登録 大阪弁護士会所属 近畿地区を中心に、交通・労災事故などの損害賠償請求事案を被害者側代理人として数多く取り扱う。

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