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会社フルコミット型OSをアップデート、若手人事が考えた「雇用の閉塞感」を打破する方法
サイボウズの髙木一史氏(撮影:栃久保 誠)

会社フルコミット型OSをアップデート、若手人事が考えた「雇用の閉塞感」を打破する方法

トヨタ自動車からサイボウズへ転職し、日本を代表するメーカーとベンチャーの雄、双方の人事部門を経験している髙木一史氏(28歳)が、初の著書となる「拝啓 人事部長殿」(サイボウズ式ブックス)を出版した。

「日本企業の閉塞感を打破したい」と、さまざまな企業から制度のヒアリングを重ね、戦後日本の雇用システムの変遷について考察も重ねる中で見えてきた「人事部長たちへの提言」とは。(ライター・有馬知子)

●多くの若手は「上司と同じ働き方はしたくない、無理だと感じている」のでは

――組織のメンバーとして、新卒一括採用で職務内容を限定せずに入社し、会社の命令で異動しながら出世していく「メンバーシップ型雇用」が日本の雇用システムの特徴ですが、この点について、どう理解していますか。

メンバーシップ型雇用では、会社に尽くして一生懸命頑張っていれば、職務に関係なくそれなりに昇格して給与も上がります。社員の多くが「自分も上に行ける」というモチベーションを持って仕事に臨めますし、それが日本企業の競争力の源泉にもなってきました。

また、退職者が出た時、欧米の企業はポストに適した人材を新たに採用する必要がありますが、日本企業は人事異動で社内の人材を充てられるので、採用コストも抑えられます。さらにスキルのない新卒者も、ジョブローテーションを繰り返しながらOJTで育てられるなど、日本企業に多くのメリットをもたらしてきました。

しかし僕たちの世代の多くは、こうした強いメンバーシップのもとで働いてきた上司たちを見ていて「あんな働き方はしたくないし、物理的にも無理だ」と感じているのが正直なところなんじゃないでしょうか。

――「無理だ」と考えるのは、どのような点でしょうか。

日本企業のメンバーシップ型雇用は、社員のフルコミットが「OS(基本仕様)」としてあり、その上で会社が強力な人事権を行使して、働く場所と時間、業務内容や量を決めてきました。現状では、ワーキングマザーなど働き方に制約のある層については、時短勤務や転勤への配慮などで、何とか許容する建て付けになっています。

いまの管理職世代は妻に家事育児を任せ、会社に命じられるとおりに転勤や長時間の残業をしてきたという男性の方が多いと思います。しかし、僕たちの世代では夫婦共働きが増えており、一方がそこまで会社にフルコミットしてしまうと、家庭生活が成り立ちません。そもそも社会の前提が変わってきている、という側面もあると思うんです。

●「スーパーハイエンド層」と「ワークライフバランス型」に二極化する

――これからの働き方は、どのように変化すべきでしょうか。

これはあくまで私の個人的な所感ですが、今の若手社員は、上昇志向が強くガンガン働いて稼ぎたいという層と、ワークライフバランス重視型で、プライベートも充実させたい層に二極化しているような気がしています。そして、傾向として多いのは後者なのかな、と。

育児や介護などの物理的な制約がない人でも、自分が一番集中できる時間や場所で働きたい、異動せず専門性を高めたい、副業・兼業にも取り組みたい、など主体的に働き方を選ぶニーズも強まっています。

ですから、こうした多様な働き方を選ぶ人が「マジョリティ」になっていくと、OSからインストールし直す必要があると感じます。そうでなければ若手は誰も、長くその会社に留まりたいとも、管理職に出世したいとも望まないでしょう。

一方でガンガン稼ぎたい「スーパーハイエンド層」に向けては、ポスト固定のジョブ型で採用し、市場価値に応じて処遇する、といった選択肢も用意していくといいのかもしれません。

●テクノロジーを使った情報共有を通じて、自身のキャリアを見つめ直す

――個別のニーズに合わせて働き方を設定するのは、企業にとって負担が大きいのではないでしょうか。

確かに労務管理を担う人事部や、現場の管理職の負担は高まるでしょう。しかし社員の労働契約や現在アサインされている業務、働き方の状況などをシステム上に「見える化」し、人事担当者や管理職が把握できるようにすれば、不可能ではないと私は思っています。そのためにはテクノロジーを活用し、社内に蓄積された知見や情報を共有できる環境を作ることが重要です。

例えばサイボウズでは、社員ひとりひとりと非常に多様な雇用契約を結び、それをシステム上で管理・更新しています。経営会議の議事録もすべて公開されるので、議論の経過をたどれば会社が10年後に目指す姿も推測できます。会社の将来像を踏まえ、自分はどんなキャリアを描くべきなのかを、社員自身で考えることができます。

ーー著書でも紹介されていますが、給与の情報まで共有している人がいるというのが驚きでした。

会社として取り組むのは難しいので、あくまで社内の有志メンバーによる活動ですが、自分の給料を公開してもいいと思った人がアプリに登録して、誰でもみられるようにしています。人によっては自身のキャリアを考えるきっかけになるでしょう。

――日本企業では、可視化されない「暗黙知」が競争力を高めたという考えも根強くあります。すべてを見える化することで、失われるものはないでしょうか。

確かに先輩の背中を見て学ぶとか、雑談から新しいアイデアが生まれるといったことはあるでしょうが、インフォーマルな場の力を重んじすぎることには弊害もあります。

大きな決定事項や人事が深夜の飲み会、タバコ部屋で何となく決まる、といったことが起きてしまうと、ワーキングマザーらフルコミットできない社員が意思決定から排除されてしまいます。そうした場に立ち会える人は限られるので、意思決定者の同質性も高まりがちです。

結果的に社会的な倫理観を欠く決定がなされ、炎上を招くこともあります。情報がオープンに共有されれば、これまで排除されてきた人もアクセスできるようになり、より多様な視点が意思決定に反映されるようになると考えます。

●多様な距離感を選ぶ人が増えていけば風土も変わっていく

――日本企業が変化するための、最も高い壁は何でしょうか。

コロナ禍で多くの企業が変化の必要性を認識するようになり、リモートワークの普及や情報を共有するためのテクノロジーの導入も進みつつあります。しかし一方で「フルコミット」を是とする企業風土は、依然として根強く残っています。

例えば製造業では、現場を支えるブルーカラーの方々が不公平感を抱くことを懸念し、ホワイトカラーが勤務地を選べるようにするといった柔軟な働き方を進めづらいなど、業界特性による壁もあります。

また企業の制度は、その企業特有の歴史や歴代役員、人事担当者の意向などさまざまな要素が絡み合い、長い時間を掛けて現在の形になっているので、一筋縄では変わらないとも思います。しかしフルコミットしたい、できる社員が少数派になっていくことを考えると、風土改革は不可欠と言えます。

――風土改革には、何が必要でしょうか。

会社にフルコミットすることが当たり前の環境で働いてきた人からすれば、多様な距離感を許容するのは難しいことだと思います。しかし会社のサステナビリティを維持するためには風土改革が必要なのだとトップが認識し、働き方の選択肢を増やしていくことが大事です。また世代に関係なく、ロールモデルをつくることも大切だと思います。

たとえば、サイボウズでは、50代の元営業部長が自ら役割を変え、サイボウズへのコミット時間を4割ほど減らして、他社で副業を始めた事例がありますが、そうした人が実際にいきいき働いている姿がオープンに共有されていることは、多様な距離感を許容する風土に大きく貢献しているように感じます。

風土とは、分解すれば、そこで働く一人ひとりの価値観であり、言動の積み重ねです。実際に新しい選択をする人が職場に増えてくれば、少しずつ雰囲気も変わってくるんじゃないでしょうか。

●日本型雇用は、企業特性や社員のニーズを反映し、100社100様になるのではないか

――日本企業が今後目指すべき雇用のあり方を、どのように考えますか。

「メンバーシップ型雇用」がだめなら「ジョブ型雇用」を、と考える人もいるかもしれませんが、雇用システムというのは企業の人事制度単体でどうこうできるものではありません。また社会保障、労働市場、教育訓練といった社会システムとセットなので、そう簡単に転換するのも難しいでしょう。

さらに日本企業は「仕事(ポスト)に人をつける」のではなく「人に仕事をつける」という意識が強すぎて、「ポスト」で雇用を管理する欧米のジョブ型は、うまく機能しないのではないかとも思います。

本書出版後、雇用ジャーナリストの海老原嗣生さんと対談した際にも指摘されたことですが、これからの日本企業は、メンバーシップ型やジョブ型のようなパターン化された「雇用モデル」に集約されるのではなく、企業特性や自社の社員のニーズを反映した、100社100様の形になっていくのかもしれません。

私が拙著のなかで提案した、1人ひとりの個性を重視できる制度を持ち、多様な距離感、自立的な選択、徹底的な情報共有といった風土がある「インターネット的な会社」が、本当に新しい企業競争力を生み出せるのかと問われると、正直、僕も絶対的な確信を持っているわけではありません。

しかし100人100通りの働き方を目指すサイボウズが成長することで、社員の満足度が高いサステナブルな働き方を実現した企業こそ、競争力が高まるのだと、証明したいと思っています。

【プロフィール】 髙木一史氏 サイボウズ人事本部兼チームワーク総研所属。東大教育学部卒。2016年、新卒でトヨタ自動車に入社。人事部で国内給与などの業務を経験した後、2019年にサイボウズへ転職。主に人事制度や研修の企画・運用を担当している。2022年6月に初の著書「拝啓 人事部長殿」を出版。

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