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「キメハラ」は違法? 「鬼滅の刃」ブームの裏で「まだ見てないの」と押し付け
『鬼滅の刃』の単行本(弁護士ドットコムニュース編集部・記者私物)

「キメハラ」は違法? 「鬼滅の刃」ブームの裏で「まだ見てないの」と押し付け

劇場版アニメ『鬼滅の刃』無限列車編が社会現象化する中で、「鬼滅の刃ハラスメント」、略して「キメハラ」という言葉まで誕生しています。

11月3日放送の『グッとラック!』(TBS系)でも「キメハラ」が取り上げられました。この番組によりますと、『鬼滅の刃』ブームの裏で傷ついた人もいるそうです。

番組では、キメハラの例として、次のようなものがあがっていました。

・「鬼滅まだ見てないの?」「見ようよ」と押し付けてくる行為
・「鬼滅がダメな人っているんだ」と好みを否定する行為
・「鬼滅がつまらない、興味ない」と他人に言えない雰囲気

SNS上でも、このような「キメハラ」に関する投稿が数多くあがっています。実は、この記事を書いている筆者も同僚から「キメハラ」を受けた一人です。劇場版を見ていないという理由で会話に入れてもらえませんでした。

はたして、職場での「キメハラ」は法的にどうなのでしょうか。加藤寛崇弁護士に聞きました。

●厚労省の指針が参考になる

――職場での「キメハラ」はパワハラでしょうか?

前提として、「これはパワハラではないのか?」といった質問は、しばしばあります。しかし、法律・判例でパワハラやハラスメントの定義がはっきりあるわけではなく、そのため一概に言えません。また、「パワハラ」や「ハラスメント」に当たるからといっても、結局は、民事上の不法行為として慰謝料等の賠償請求ができるかどうかという問題です。

ただし、2020年6月施行の改正労働施策総合推進法では、雇用主は、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」のないよう必要な措置を講じなければならないことになっています(30条の2第1項)。

厚生労働省もこの法律に基づいて指針を定めており、ここで「パワーハラスメント」の内容が定義されています。厚生労働省の指針はパワハラの定義としていささか狭いですが、参考にはなるでしょう。ここでいうパワハラに当たれば、不法行為に当たりやすいと言えます。

●厚労省の指針からは外れている

――どんな行為がパワハラにあたるのでしょうか?

詳細は、その指針を参照いただきたいですが、パワハラの例として挙げられているのは、以下の通りです。

1 身体的な攻撃(暴行・傷害)
2 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
3 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
4 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
5 過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
6 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

この例示も参考にして考えると、「キメハラ」の例として挙げられた言動は、侮辱とか暴言というほどでもないですし、『鬼滅』を見ていない・好きではない人を仲間外しにするような行為ではありません。

「劇場版を見ていないという理由だけで、話に入れてもらえなかった」というのも、劇場版に関する会話に見ていない人が加われないのは、ある意味ではやむをえないことであり、その後も無視されたとかいうのでなければ、「仲間外し」とは言い難いです。そのため、1から5には当たらないでしょう。

個人の好みに介入する行為として、6の「個の侵害」と見る余地はあっても、よほどしつこく観賞するよう押し付けてくるとかでなければ、不法行為に当たるような過度の立ち入りとは評価できないでしょう。

●キメハラは「不法行為」に当たると考えにくい

――キメハラはパワハラにあたらない、と。

キメハラとして挙げられた言動はいずれも不法行為に当たるとは考えにくいです。もちろん、度が過ぎれば不法行為に該当することはありえます。

いずれにせよ、他人のいろいろな言動で不快感を抱くことは少なからずあることで、なんでも不法行為になるわけではありません。「個人の好みを否定する行為」は不快かもしれませんが、感じ方は人それぞれで、その人の感想だと受け止めれば済むことです。

「私は鬼滅はつまらないと思った。大正時代なのに第一次世界大戦もロシア革命もシベリア出兵もスペイン風邪も無縁で、世界や日本の出来事から隔絶した狭い世界で物語が進んでいて、『日本風』の世界を舞台にしただけの、いかにも世界の狭いオタク好みの作品だった」といった感想を持つのも自由です。気にしないのがよろしいでしょう。

プロフィール

加藤 寛崇
加藤 寛崇(かとう ひろたか)弁護士 みえ市民法律事務所
東大法学部卒。労働事件、家事事件など、多様な事件を扱う。労働事件は、労働事件専門の判例雑誌に掲載された裁判例も複数扱っている。

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