技能実習生など、国内の外国人労働者の労働環境をめぐり、国際社会からの風あたりが強くなる中、ビジネス側の弁護士グループと、外国人労働者を支援している弁護士グループが協力して、日本企業がサプライチェーンを通じて外国人労働者の労働環境の改善に取り組むための「ガイドライン」を作成して、8月21日に発表した。
●人権問題に取り組むうえで有益な行動原則が示されている
このガイドラインは、「ビジネスと人権ロイヤーズネットワーク」、「外国人労働者弁護団」、「外国人技能実習生問題弁護士連絡会」が策定した。
日本企業向けに、サプライチェーン(下請け構造)における外国人労働者の労働環境の改善をはじめ、人権問題に取り組むうえで有益な行動原則や、サプライチェーンに対して遵守を要請する調達基準などが示されている。
・サプライチェーンにおける外国人労働者の労働環境改善に関するガイドライン
https://www.bhrlawyers.org/migrantworkers
●「リスクとして評価されている」
この日、東京・霞が関の厚労省記者会で会見が開かれた。
ビジネスと人権ロイヤーズネットワークによると、米国務省・人権取引報告書(2020年6月版)では、技能実習法の執行が不十分であることから、日本の評価ランクが下がった。国連人権理事会による審査・勧告などもあり、技能実習制度に対する批判は国際的に根強い。さらに、近年、欧米でサプライチェーンに対するチェックが義務付けられるなどの動きが広がっているという。
同ネットワークの大村恵実弁護士は「海外の投資家からみても、大企業のサプライチェーンで技能実習生が使われていることがリスクとして評価されて、最悪の場合、投資引き上げもありうる。労働市場という観点からも、技能実習制度への悪評で魅力が損なわれており、日本企業は、ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点から、適切なリスク管理をしていく必要がある」と指摘した。
●「人権リスクが大きな打撃になる」
技能実習生問題に取り組む指宿昭一弁護士によると、ベトナム人実習生の多くが日本に来る際、1人100万円(ベトナムの平均年収の3〜4倍)をブローカーなどに徴収されている。実習生はその借金を返しながら、転職の自由もなく、パワハラ・セクハラ・賃金未払いなどにさらされており、「奴隷労働といって過言ではない状況だ」という。
こうした問題は、実習生を受け入れた中小企業に責任があるとされてきたが、そこでつくられた製品が大企業に納入される構造があることなどから、大企業の社会的責任も問われるようになってきている。
指宿弁護士は「人権リスクを抱えると、経済的にも大きな打撃を受けるようになるということが認識されるようになってきた」「直接(実習生を)受け入れている企業だけでなく、その取引先の大企業を含めて、今回のガイドラインを使って、サプライチェーンで人権侵害がおこらないようにして、社会的責任をまっとうしてもらいたい」と話した。