派遣社員として、IT大手「日本ヒューレット・パッカード」で10年以上働いたあと「雇い止め」になった東京都の男性(57)が3月31日、労働実態は正社員と同じだったとして、正社員の地位確認と未払い賃金など計約1500万円の支払いを求めて、東京地裁に提訴した。男性と代理人弁護士らは同日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見した。
●正社員として入社したあと「派遣社員」に転換
訴状によると、男性は2002年に日本ヒューレット・パッカードに正社員として入社。業務用プリンターのクレーム対応業務を担当した。ところが2004年、会社から「仕事内容や待遇は変わらないから」と言われ、会社が指定する派遣会社と契約を結び、そこから会社に派遣される労働形態に変わった。
当時を振り返って、男性は「くわしい仕組みをよく知らず、(当時は)同じ待遇で同じ仕事ができれば、別に構わないやと思っていた」と後悔した様子で話す。
その後、会社の指示で派遣元が2回変わったが、男性の業務内容は一貫して変わらなかった。賃金、福利厚生、休暇の取り方も、正社員のときと同じだったという。ところが、2015年4月、「契約満了」を理由に雇い止めになった。
●派遣労働契約は「無効」だと主張
男性側は、派遣元が男性を管理した実態がなく、会社から男性へ支払われるべき賃金を中間搾取していただけと指摘。派遣社員時代の働き方は、職安法が禁止する「労働者供給」に当たるとして、派遣労働契約の無効を主張している。
その一方で、指揮監督は常に日本ヒューレット・パッカードが行っており、待遇も変わらなかったとして、正社員の契約関係が継続していたと訴えている。
最高裁の判例には、労働者派遣法に違反していても、「特段の事情」のない限り、それだけを理由に派遣労働契約は無効にならないというものがあり、今回の訴訟でも争点になるとみられる。
しかし、代理人の西田穣弁護士は「今回は会社との直接雇用契約(正社員契約)が先にある点が『特段の事情』になりえると考えている」と説明。「派遣元を取り込んで、業務内容や賃金、『派遣先』に至るまで、会社がすべて決めており、派遣法違反の態様は悪質だ」と述べた。
日本ヒューレット・パッカードの広報担当者は、弁護士ドットコムニュースの電話取材に対し、「訴状が届いておらず、現時点ではコメントを差し控えさせてください」と話していた。