退職が決まったら、きっちり有給休暇を消化して、次のステップに進むエネルギーを養いたいと考える人は多いはず。しかし、実際には「有給休暇を残したまま、退職せざるを得なかった」という実態も多くあるようです。
ある人は「後任が決まるまで待って」と言われ、結局、後任が決まったのは退職する3日前。「結局、前年度の繰越分を含め、20日以上、無駄にしました」と悔しそうです。また、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに「どうしたら、有給(有給休暇)消化し、辞めることができますか」と、質問を寄せた人の場合は、上司に「ダメ。前例がない」と言われたそうです。
「有給休暇を取得してから辞めたい」と願う退職者と、「ダメ」と断る上司。法的に正しいのはどちらでしょうか。大西 敦弁護士に聞きました。
●法的に正しいのは、どちら?
労働者は、6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤すると、有給休暇を使用する権利を取得します(労働基準法39条1項)。使用者(雇用主)側は、労働者が請求した時季に、有給休暇を与えなければなりません。
しかし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、他の時季に与えることができます(労働基準法39条5項但書)。これを「時季変更権」と言います。
ここでは、「事業の正常な運営を妨げる場合」の判断が問題になります。日常的に業務が忙しい、人手不足で代わりの者がいないといった事情では、「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するとは言えません。
このような場合に、時季変更権を認めてしまうと、忙しい職場、人手不足の職場では有給休暇を取ることができなくなってしまうからです。加えて、使用者は、労働者が請求した時期に有給休暇が取れるよう配慮する義務を負うとされています。
今回の事例でいえば、有給休暇を取得したい理由は、退職する前に有給休暇を消化したいというものです。そもそも、取得理由と事業の正常な運営を妨げるかどうかは関係のない問題です。従いまして、法的に正しいのは、「有給休暇を取得してから辞めたい」と願う退職者ということになります。