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「経費が一切落ちません。請求できますか?」 ある居酒屋チェーン店長の悲痛な叫び

「経費が一切落ちません。請求できますか?」 ある居酒屋チェーン店長の悲痛な叫び

居酒屋などの外食産業は労働環境が厳しいことで知られ、なかには「ブラック企業」と名指しされるような居酒屋チェーンもあるが、ただ「仕事が大変」というだけだったら、まだましというべきなのだろう。というのも、他の会社なら認められる「経費」がまったく認められない居酒屋もあるようなのだ。

弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」に寄せられた、ある居酒屋チェーンの店長の告白によると、この居酒屋では労働に必要な経費がすべて「社員負担」なのだ。交通費はもちろん、店内の電球や壁紙の修理費まで、なにからなにまで社員が自腹を切らねばならない。そのために、そこそこの給料をもらっても、満足に貯金もできないのだという。

このように、会社が社員に「経費」を負担させるのは許されるのだろうか。もし違法だとしたら、会社にいままで支払った分を請求できるのだろうか。労働トラブルに詳しい好川久治弁護士に聞いた。

●会社が事業のために必要な「経費」を負担するのは当然

「会社は、自己の責任と負担で事業目的を達成しようとしているわけですから、会社が事業のために必要な『経費』を負担するのは当然です。一方、社員は、会社と雇用契約を結び、労働力を提供して賃金を支払ってもらう立場ですから、会社が負担すべき『必要経費』を負担する理由はありません」

つまり、会社に雇われて働いている以上、仕事にかかった経費は「会社もち」となるのが当たり前ということだ。これはフリーのウェブデザイナーなどがおこなっている業務委託の仕事とは違う点だ。

そして、雇用契約である以上、社員が会社のために必要な経費を出したのであれば、「立替金を会社に請求していくことができます」。法律的には、民法の「不当利得」にあたるので、「まだ時効にかかっていない過去10年の立替経費を請求できます」。

また会社が、給与から経費を天引きしているとすれば、「本来支払われるべき賃金が支払われていないことになるので、未払分を請求できます」ということだ。ただし、この場合の時効は2年とのことだ。さらに、このような「天引きによる賃金の未払い」は労働基準法にも反するのだという。

●通勤交通費は「経費」ではないから、本来は社員が負担すべきもの

このように経費は会社負担となるわけだが、通勤交通費については、注意が必要だ。「通勤交通費は、労務を提供するために社員が会社に出向くための費用ですから、法律上は、社員が負担するものです」。実際には通勤費も負担している会社が多いが、会社が当然負担すべきものではないのだ。

居酒屋の仕事がいくら大変とはいっても、経費をすべて負担させるのは明らかにやりすぎで、法にも反していることになる。いわゆる「ブラック企業」の典型的なケースといえ、このような労働環境が改善されることを望みたい。

(弁護士ドットコムニュース)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

好川 久治
好川 久治(よしかわ ひさじ)弁護士 ヒューマンネットワーク中村総合法律事務所
1969年、奈良県生まれ。2000年に弁護士登録(東京弁護士会)。大手保険会社勤務を経て弁護士に。東京を拠点に活動。家事事件から倒産事件、交通事故、労働問題、企業法務まで幅広く業務をこなす。趣味はモータースポーツ、ギター。

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