朝早く出社して、夜は残業しないで早めに帰宅――こうした働き方を推奨する企業の取り組みが、話題となっている。
伊藤忠商事は今年5月、午後8時以降の残業を原則として禁止した。代わりに朝型勤務を促すため、朝5時から9時までの時間帯の勤務に「割増賃金」を支払うという。また、カゴメも今年5月から、午後8時以降の残業を原則禁止とする制度を導入したと報じられている。
長時間労働が「社会問題」と考えられるようになって久しいが、夜の残業を禁止する取り組みは、そうした状況に風穴を開けることができるだろうか。東京弁護士会の労働法制特別委員会の委員をつとめる中村新弁護士に意見を聞いた。
●「ダラダラ残業を防げる」
「時間外労働を適正な範囲に抑えるべく、朝型勤務を奨励し、深夜勤務の禁止を行うことは有効だと思います。
夜間、会社に残って仕事をすると、ダラダラ長時間になりがちです。仕事を切り上げるタイミングをつかめず、終電まで残ってしまうケースもあるでしょう。会社が仕事の『お尻』を設定すれば、そういった形での残業を防ぐことができそうです」
このように中村弁護士は、「夜の残業禁止」には長時間労働の歯止め効果があるという見方を示す。
●長時間労働を防ぐ仕組みは?
そもそも、長時間労働に対して、法律ではどんな歯止めがあるのだろうか。
「労働基準法は原則として、1週間につき40時間・1日につき8時間という労働時間の制限を設けています(労基法32条1項・2項)。
本来は、この法定労働時間を超えて従業員を稼働させることができませんが、現実にはオーバーワークをめぐる問題が日々生じています。
その理由は、使用者と労働者が『36(さぶろく)協定』を結べば、割増賃金を支払ったうえで、協定の範囲内で時間外労働をさせることができるからです」
36協定とは何だろうか?
「労働者と使用者の間で取り決めをすれば、時間外労働をさせることができるというルールです。労働基準法36条に定められているので、36協定と呼ばれます。
36協定は、使用者が、労働者の過半数で組織する組合、もしくは労働者の過半数を代表する者と、書面で協定を結んで労基署に届け出ることで成立します」
その「36協定」があれば、使用者はいくらでも従業員に残業させることができるのだろうか。
「そういうわけではありません。通達により、1週間に15時間、1ヶ月に45時間、1年に360時間といった上限時間が定められています。
また、『36協定』に特別条項を設ければ、臨時的な事情に限定されますが、この上限時間を超えて稼働させることも可能です」
●朝型勤務は広がるか?
一方、「夜20時以降の残業禁止」は、企業にとってどんなメリットがあるのだろうか?
「時間外労働に対しては、25%以上の割増賃金を支払う必要があります。さらに、深夜の時間外労働は、通常より格段に高率となる50%以上の割増賃金を支払う必要が出てきます。
深夜の時間外労働を回避できれば、賃金支払いを減らすことができますので、深夜残業の禁止は使用者にとっても有用です」
こうした取り組みは、中小企業などにも広がっていくのだろうか?
「業種にもよるでしょうが、中小企業でも、シフトを工夫するなどして、こうした制度を導入することが可能ではないでしょうか」
中村弁護士はこのように指摘していた。