エントリーシートや履歴書をスルスルと埋めていくことのできる人もいますが、中には、ふと考えこんでしまう人もいるようです。うつ病による休職、交通事故での罰金刑については書くべきなのかどうかーー。そんな相談が、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに寄せられています。
たとえば現在、転職活動中の女性の場合、「うつで約3カ月、休職していました。原因は元上司のパワハラだったのですが、現在は配置転換でその上司とも離れ、主治医からも復職、転職に問題はないと言われています」といいます。ただ、問題は転職活動でその事実を告げるかどうか、です。「私としては問題ないと思っていますが、隠すことで、後々問題が発生する可能性はあるのでしょうか」。
また、別の人から、「傷害事件を起こし、示談が成立。不起訴処分になっています。このことは履歴書の賞罰に記載する必要はありますか」との相談も寄せられていました。賞罰に関する相談は、他にもあり、「5年2か月前に自動車運転過失致死で罰金刑を受けました。前科は消えないと思いますが、5年以上経過しているため、罰金刑の告知義務はありますか」。
履歴書に、なかなか書きたくないこうした事実についても、記載する義務はあるのでしょうか。また記載しなかった場合に、罪に問われたり、懲戒処分の対象になったりする可能性はあるのでしょうか。田村優介弁護士に聞きました。
●履歴書に書かないことは、罪になる場合はある?
「そもそも,『履歴書』という書類については、なんら法律上の定めはありません。記載内容などについても、規定はありませんので、法律上『記載しなければならない事実』というものは存在しません。また、会社に入社するにあたって、採用希望者が事前に自発的に告知しなければならない事実、というものも、法律上も判例上も特に存在しません。
したがって、特定の事実を書かないことが、なんらかの法律違反・義務違反となることは原則としてないといえます」
ーー寄せられる質問を読むと、「黙っていることで、後々、問題になるのでは」と考える方もいるようです。
「従来の履歴書書式には『賞罰』との名称の欄が存在することがありました。そのため、犯罪歴のある人が、この欄に『特になし』などと記入した場合、虚偽記載になってしまうのではないか、との問題がありました。しかし現在では、JIS規格の履歴書書式をはじめとして、書式上『賞罰』欄が存在することは少ないと思われます。
もちろん、履歴書に虚偽の事実を書くことはいけません。例えば大学を中退してしまったのに卒業したと記載したり、入社したことのない企業名を記載したりすれば、虚偽が発覚した場合には解雇等の懲戒処分の対象になることはあり得ます。
ですが、犯罪歴等の事実を『書かないこと』について考えると,最高裁判例において、個人の犯罪歴について『人の名誉、信用に直接に関わる事項であり、前科等のあるものもこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する』と述べられており(1981年4月14日)、個人が、自身の犯罪歴等について積極的に公開しなければならない義務はおよそないと考えられます」