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残された配偶者が住み続ける「長期居住権」、実現への課題…民法・相続制度見直し
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残された配偶者が住み続ける「長期居住権」、実現への課題…民法・相続制度見直し

民法の相続制度の見直しに関する議論が続いている。議論のひとつの大きなテーマとなっているのが、相続などで建物の所有者が代わっても残された配偶者に住み続ける権利を認める「長期居住権」の創設。法務省が10月19日に公表したパブリックコメント(意見公募)では、賛否さまざまな意見がよせられた。

「長期居住権」は、独り暮らしの高齢者の居住権を確保するため、制度創設の必要性が指摘されていた。意見公募では、肯定的な声が多かった一方、「新たな紛争が生じる恐れがある」「不動産流通を阻害する」といった慎重論も寄せられた。

長期居住権とはどんな権利なのか。なぜ、新たにこうした権利を創設する議論が起きているのか。不動産の問題に詳しい関戸淳平弁護士に聞いた。

●課題は「居住権の価値」をどのように評価するのか

「長期居住権とは、被相続人(亡くなった方)の配偶者が、相続開始の時に居住していた被相続人所有の建物に終身、または一定期間、その建物を使用できるようにする権利です」

関戸弁護士はこのように述べる。なぜ、こうした権利を必要とする議論が起きているのか。

「高齢化や平均寿命が伸びたことに伴って、被相続人が死亡した後も、配偶者が住み慣れた被相続人所有建物で平穏に生活を継続することを希望するケースが増えています。

現行の民法のもとでこうした希望をかなえるには、(1)遺産分割等で配偶者が建物の所有権を取得するか、(2)建物を取得した者と新たに賃貸借契約等を締結するか、いずれかの方法をとる必要があります。

しかし、(1)の方法では、遺産の内訳しだいでは、配偶者が建物以外の預貯金等の遺産を取得できず、その後の生活に支障がでることがあります。

また、(2)の方法では、契約が成立しなければ居住権は確保できなくなります。

このような状況を踏まえ、配偶者に、居住建物の所有権を取得する場合よりも低い価額で居住権を確保させることを目的として、長期居住権の新設が検討されているのです」

検討すべき課題は何なのか。

「居住権をどのように評価するのかという点です。

長期居住権には財産的価値が認められており、配偶者が長期居住権を得た場合には、その財産的価値に相当する金額を相続したものとされます。

また、配偶者がやむを得ない事情で建物を使用できなくなった場合には、所有者への買取請求を認めることも検討されています。

しかし、居住権の価値の評価は容易ではなく、評価方法等について新たな紛争が生じることが懸念されます。

中間試案では、この点について『なお検討する』とされており、今後どのような制度設計がなされていくかが注目されます」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

関戸 淳平
関戸 淳平(せきど じゅんぺい)弁護士 横浜ユーリス法律事務所
中央大学法学部卒。2004年弁護士登録(横浜弁護士会)。2009年より横浜ユーリス法律事務所パートナー。不動産売買、賃貸、マンション問題、相隣問題等、不動産に関連する事件を数多く手がけている。

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