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正月の遺言書作成に潜む「無効」リスク 酒席での一筆、日付「吉日」はNG?
画像はイメージです(Fast&Slow / PIXTA)

正月の遺言書作成に潜む「無効」リスク 酒席での一筆、日付「吉日」はNG?

年末年始、久しぶりに家族親族が一堂に会するお正月。「そろそろ終活を」という話になり、その場の勢いでエンディングノートや遺言書を書こうという流れになる家庭も少なくありません。

しかし、「せっかくだから」と書いたその一筆が、のちに思わぬトラブルの火種になることがあります。お酒が入った状態で書いたり、「吉日」という日付の記載をしたりすれば無効となるリスクも。また、法的な効力を持つ「遺言書」と、想いを託す「エンディングノート」の境界線はどこにあるのでしょうか。

家族が集まる今だからこそ知っておきたい遺言書作成について、法的視点から解説します。

●エンディングノートと遺言書の法的な違い

まず整理しておきたいのは、エンディングノートと遺言書の違いは「法的効力の有無」にあるという点です。ただし、この違いは絶対的なものではなく、相対的なものです。

一般に、エンディングノートは、家族へのメッセージや、延命治療・介護の希望、葬儀の形式などを自由に記すためのものです。こうした内容は残された家族にとって重要な指針となりますが、それだけでは法的な拘束力はありません。

一方、遺言書は、民法で定められた厳格な方式に従って作成される法的文書です。たとえば自筆証書遺言の場合、民法968条により、全文、日付、および氏名を自書し、これに印を押すことが成立要件とされています。

注意すべきなのは、「エンディングノート」というタイトルの書面であっても、これらの法定の要件を満たしていれば、遺言としての効力が認められ得るということです。逆に「遺言書」というタイトルがついていても、自筆証書遺言の形式的な要件(日付などの自署や押印)を欠いてしまうと無効になります。

タイトルでその書面の効力が完全に決まってしまうわけではないのです。(もちろん、財産をどう残すかをきちんと法的に整理しておきたいという目的で書面を作成するなら、「遺言書」というタイトルにした方が良いです)

なお、遺言書には財産の処分方法だけでなく、付言事項として、家族への想いや葬儀の希望などを記載することもできます。ただし、付言事項には法的拘束力はないとされています。

書き直しの自由度を重視するのであれば、日常的な想いの整理にはエンディングノートを活用し、確実に法的効力を持たせたい財産承継については民法の要件を満たした遺言書を作成するという使い分けも良いかもしれません。

画像タイトル エンディングノートと遺言書の境界線(弁護士ドットコムニュース編集部作成)※作成にはAIを使用しています

●お正月の作成に潜む「形式不備」と「遺言能力」のリスク

お正月に家族が集まった際、「せっかくだから今書いてしまおう」という流れになることもあるでしょう。しかし、ここには2つの注意点があります。

1つ目は「形式の不備」です。

自筆証書遺言は自分一人で書ける手軽さがありますが、ミスが許されません。よくあるのが日付の不備です。

判例では、「昭和四十壱年七月吉日」のように日付が特定できない記載は無効とされています(最高裁昭和54年5月31日判決)。なお、「令和◯年元旦」という記載については、一般には1月1日をさすことが明らかであり、日付が特定できるとして有効と考えられています(東京地裁平成27年11月2日など参照)。

ただ、このような日付の記載ですらかなり細かくチェックされるということからも、自筆証書遺言の形式の厳格さに十分注意すべきだとおわかりいただけるかと思います。

2つ目は「遺言能力」の問題です。

遺言が有効であるためには、遺言者がその内容と法的効果を理解できる「遺言能力」を有している必要があります(民法961条、963条参照)。

お正月で親族が集まり、お酒を飲んで盛り上がっている状況で遺言書を書いた場合、後になって「当時は酩酊状態で、正常な判断ができなかった(遺言能力がなかった)」として、遺言の無効を主張されるリスクが生じます。

もちろん、酒席で書いたから直ちに無効だ、とはならないのですが、トラブルの元になりますので、判断能力に疑義が生じるような状況での作成は避け、落ち着いた環境で作成するべきです。

画像タイトル お正月の作成に潜む2大リスク(弁護士ドットコムニュース編集部作成)※作成にはAIを使用しています

●自筆証書遺言の保管制度とその限界

自筆証書遺言のデメリットである「紛失」「改ざん」「形式不備」のリスクを軽減するため、2020年7月から「自筆証書遺言書保管制度」が始まっています(法務局における遺言書の保管等に関する法律)。

この制度を利用すれば、作成した遺言書を法務局で保管してもらえるため、紛失や隠匿の心配がなくなります。また、遺言者が亡くなった後に必要となる家庭裁判所での「検認」手続きも不要になるというメリットがあります(同法11条)。

ただし、この制度には限界もあります。法務局の窓口では、日付の有無や署名押印といった「外形的な確認」は行われますが、遺言の内容面のついての「実質的な審査」までは行われません(「法務局における遺言書の保管等に関する政令」参照)。

保管制度を利用したからといって、内容の矛盾や遺言能力の問題による無効リスクが完全に解消されるわけではない点には注意が必要です。

●確実性を求めるなら「公正証書遺言」という選択肢も

より確実な方法としては、「公正証書遺言」を作成するという選択肢があります。

これは、証人2人以上の立ち会いのもと、遺言者が公証人に遺言の趣旨を口授し、公証人がそれを筆記して作成する形式です(民法969条)。法律の専門家である公証人が作成に関与するため、形式不備で無効になるリスクは極めて低く、原本が公証役場に保管されるため、紛失や偽造の心配もありません。

費用や手間はかかりますが、財産関係が複雑な場合や、将来的に親族間で遺言能力や内容を巡る争いが予想される場合、あるいは絶対に無効にしたくないという強い希望がある場合には、自筆証書遺言ではなく、公正証書遺言を選択するのが賢明です。自身の状況や目的に合わせ、弁護士等の専門家に相談しながら適切な方式を選ぶことが一般的です。

画像タイトル 自筆証書遺言書保管制度と公正証書遺言という選択肢(弁護士ドットコムニュース編集部作成)※作成にはAIを使用しています

(参考文献)
「第3版 Q&A 遺言・信託・任意後見の実務 公正証書作成から税金,遺言執行,遺産分割まで」(雨宮 則夫、寺尾 洋/2018年8月、日本加除出版)
「事例解説 高齢者からの終活相談に応えるための基礎知識」(相原佳子/青林書院、2018年10月)
「ユーリカ民法5 親族・相続〔第2版〕」(田井義信、小川富之/法律文化社、2025年4月)

監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)

※2026年1月4日14時 文頭の誤記を一カ所訂正しました。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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