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子どもが亡くなった…養育費払っているけど「行方不明」の父親に伝える義務は?
画像はイメージです【KOHEI 41 / PIXTA】

子どもが亡くなった…養育費払っているけど「行方不明」の父親に伝える義務は?

突然、訪れた子どもの死という悲劇。そのとき、離婚した「子の実父・実母」に報告する義務はあるのでしょうか。もし、相手が養育費を払っているとしたら…。

弁護士ドットコムの法律相談コーナーに、シングルマザーの母親から「子どもが亡くなったら、子どもの父親に伝えなくてはならないのでしょうか」という質問が届きました。

男性とは結婚していなかったようですが、子の認知はしてもらっていて、養育費の支払いもあるとのこと。ただ、相手の勤務先や住所、携帯も変わっており、今は連絡が取れないといいます。いわば「行方不明」状態。

相手の居所を調べるにしても、お金や時間がかかります。深い悲しみの中、「嫌いになった(子の)父親」にその労力を払うのは、精神的に大きな負担といえますが、法的にはそこまでする義務があるのでしょうか。久保田仁弁護士に聞きました。

●報告しないと「詐欺罪」や「横領罪」などの可能性も

ーー養育費を払っている父親に「子どもの死」を報告する義務はあるのでしょうか?

報告する義務はあると思われます。子どもの養育費は、父親と母親との間で分担する子どもの生活費なので、子どもが亡くなってしまった場合父親には支払う義務が無くなるからです。

ーー報告せず、養育費をもらい続けるとマズいのでしょうか?

民事上は不当利得になり、養育費としてもらったお金は父親に返還しないといけないと考えられます。

刑事上の観点からは、子どもが死んだことを積極的に隠したり、相手方から尋ねられたのにまだ生きていると言うなど、嘘をついて養育費をもらい続けたりした場合は詐欺罪に問われる可能性があります。

ーー父親を探す義務があるということですか?

連絡する義務がある以上、ある程度努力して探す義務はあります。

ただし、相手方に連絡しようと努力したが、連絡先が分からず子どもが死んだことを伝えられなかった場合は詐欺罪に問われることはないと思われます。

とはいえ、養育費として振り込まれ続けたお金を自分のために使ってしまった場合は、横領罪等に問われる可能性もあります。

●銀行への連絡や戸籍謄本の取得などで探してみる

ーー父親を探すためにはどうしたら良いのでしょうか?

費用をそれほどかけずに調べる方法はいくつか考えられます。次のような方法で、子どもが亡くなったことと今後の養育費の支払いは不要であることを伝えれば、一定の義務は果たしたと言えるのではないでしょうか。

(1)銀行を通じて養育費の振込依頼人の連絡先を照会すれば、銀行が父親に対して連絡先を伝えてよいか確認をします。父親の対応次第ですが、承諾があれば連絡先を教えてもらえます。

(2)亡くなった子どもにすでに子がいる場合を除いて、父親も亡くなった子どもの相続人になります。母親と父親は亡くなった子どもの「共同相続人」として、戸籍謄本や戸籍の附票(住民票の写し)を取得できるはずです。そうすれば、住民票上の住所地に手紙を送ることができます。

ーーこの方法でも連絡がつかなかったらどうでしょうか。銀行側も父親の連絡先を把握できていなかったり、住民票上の住所地に住んでいなかったりする可能性などもあると思いますが…

相手に連絡するよう努力はしており、連絡が不可能な点について非はないと言えます。

ただし、払われ続けている養育費は、法的には受け取る根拠のないお金なので、不当利得として返還しなければいけない金銭であることに変わりはありません。

このように、相手方に返金したいのに返金できない場合には、法的には供託(受領不能を原因とする弁済供託)することが正しい方法であると言えます。国家機関である「供託所」に管理を委ねるのです。

ただ、供託する場合は費用や手間(供託は毎月することになります)がかかる上、手続自体も一般の方にはなじみがなく難しいと思われます。

ですので、現実的な手段として、送られてきたお金に一切手を付けず、銀行口座等で保管しておく等の方法になるのではないかと思われます(この場合、後で子どもの死亡を知った父親から不当利得であるとして利息を付して返還するよう請求される可能性は残ります)。

また、今後の受取を拒否するだけなら、振り込まれてきている銀行口座を解約してしまうなどの方法も考えられます。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

久保田 仁
久保田 仁(くぼた じん)弁護士 丸亀みらい法律事務所
香川県弁護士会所属。平成20年弁護士登録。香川県出身。平成25年丸亀市において丸亀みらい法律事務所開設。香川県弁護士会副会長(平成29年度)、日弁連子どもの権利委員会委員(幹事)、日弁連家事法制委員会委員,香川県弁護士会刑事弁護センター運営委員会委員長(平成26年~平成28年)、高松家庭裁判所家事調停官(非常勤裁判官)など。

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