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【親子断絶防止法案】「別居する様々な実情を考慮していない」と打越弁護士が懸念
打越さく良弁護士

【親子断絶防止法案】「別居する様々な実情を考慮していない」と打越弁護士が懸念

未成年の子どもをもつ夫婦が離婚後、直面しやすい2大トラブルが「養育費を支払ってもらえない」「子どもと会えない」だ。そこで現在、超党派の国会議員(約70名)が所属する「親子断絶防止議員連盟」は、面会交流の義務化等を定める「親子断絶防止法案」の国会提出に向け、法案の調整に動いている。

離れて暮らす親と子どもが会うことを「面会交流」という。法案は、児童の権利条約を踏まえ、離婚後も親子関係が継続することの重要性を強調。「子の最善の利益に資する」「父母がその実現についての責任を有する」などとして、離婚時に面会交流及び養育費の分担に関する書面での取り決めを行うこと、面会交流の定期的な実施を提唱する。

しかし、この法案を危惧する声が、離婚問題を扱う弁護士や研究者らから聞かれる。反対の根拠としてよく指摘されるのが、子どもを育てる監護親がDV被害にあったケース、子どもが児童虐待にあったケースでも強制されるのではないか、という問題だ。

家事問題に詳しい打越さく良弁護士によれば、問題はその点にとどまらない。打越弁護士は「会えない親の辛さはとてもわかります。面会交流は重要です」とした上で、「この法案は、子どもにとっての利益を掲げながらも、実質的には子どもの利益というよりも、離れて暮らす親にとっての利益に資することを目的にしているようです」と指摘する。

「現状では、面会交流実現のための支援策が残念ながら手薄となっています。しかし、この法案では、公的な支援策が欠けており、どのように充実させられるのか不明です。『面会交流をするのは義務だ』というだけでは、ケースによっては非常に酷な事態になりかねません」。

法案の問題はどこにあるのか。打越弁護士に詳しく聞いた。

(「親子断絶防止議員連盟」のインタビュー記事は後日お送りします)

●何が問題か?

ーーこの法案について、打越弁護士は主にどこに問題を感じているのか

超党派の議連が8月25日に公表した法案を読み、主に以下の6点について問題があると考えています。

(1)子どもを連れて別居することには様々な実情があることを踏まえていない(話し合うことが難しい場合もある)

(2)養育費について関心が乏しい

(3)面会交流が子の利益に反する場合でも、例外と認められるか不明

(4)子どもの意思への配慮がない

(5)当事者に義務付けるのみで、公的な支援のあり方が不明

(6)国が様々な事情にある子どもがいることを想定せずに、「人格形成のために重要なもの」を打ち出す

ーーこの中で、もっとも懸念するのはどの点か

どれも重要な問題ですが、とりわけ(1)に関し、子どもを連れて別居するケースの様々な実情を踏まえているようにみえないことを強く危惧しています。

法案では、監護する者(子どもと暮らす側の親)を取り決めずに子どもを連れて別居することなどが生じないよう、国が啓発活動をするとあります(8条)。

しかし、やむを得ず別居を決断する場合、相手方と対等な話し合いがもはやできず、そもそも話し合いの場すら持つことができない状況の人も多い。決めるまでは別居することが望ましくないとされてしまうと、DV被害者にとっては実質的に逃げる自由もないということになりかねません。

私が出会ってきたケースで、子を連れて別居した親は、ギリギリまで子どもの生活を考え、踏みとどまろうとしてきた。それでも、DVなどがあり、子どものためにこの生活は良くないと家から出た事情がありました。出て行くことすら認められないと言われたら、どうしたらいいのでしょうか。

海外では、DVの保護命令の一内容として、加害者に住居から出て行けという別居命令という制度がある国もありますが、日本には「引っ越し準備期間」として2ヶ月の退去命令があるのみです。

法案がこのまま通れば、どんな事情があれ「出て行くな。出て行くなら子どもを置いておけ」というメッセージを発しかねないのではないでしょうか。離婚が成立する前に「子どもを連れて別居する」ことをさせたくないための法案に思えます。

ーー別居する夫婦に関する調査が不足しているということか

立法事実を裏づけるデータも調査されているのか、不安です。まずは、別居事案についてどのような事情で別居したのか、どのくらいの割合で取り決めがなされていないのか、どのような事情で取り決めができなかったのかを詳しく調査するべきです。その上で、どのような援助があれば取り決めが促せるか、立法事実を踏まえ、援助、手続を検討するべきでしょう。

また、法案は、面会交流に一応の重点を置く一方、養育費については「子の監護に要する費用の分担に関する書面による取り決めを行うよう努めなければならない」(6条)程度にしか書かれていないことも、バランスを欠いています。

ーー養育費についての言及が不十分だということか

子の福祉、養育支援という観点からいえば、養育費がきちんと支払われることが、子の利益に資することは、間違いありませんよね。そのためには、養育費の取り決めの促進、確保についての手立ての充実が必要ですが、課題も大きいと考えています。

たとえば家事実務では現在、13年も前の2003年に公表された「算定表」(東京・大阪養育費等研究会作成)が広く利用されていますが、日弁連は様々な問題点があることを指摘してきました(11月末には新しい算定表を提言http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2016/161115_3.html )。どのような基準が相当なのか、公的な見直しが必要です。

また、各国では、養育費を税金と一緒に取り立てたり、不払いを刑事罰の対象としたりする国もあります。議論はあると思いますが、養育費についてももっと関心を払った法案にしてほしいです。

●民法766条改正による実務への影響

ーー法案では、面会交流は努力義務として書かれ、罰則はない。それでも実務には影響があるのか。

私自身、面会交流ができるほうが、できないよりいいと思っています。しかし、面会交流を取り決めることが難しい、面会交流が子どもに酷であるケースもあります。その場合にどうするのかという対策が、この法案からは見えてきません。

そのため、実務には大きな影響が出てくると予想します。2011年、民法766条が改正されて以後、DVがあり未だ外傷後ストレス障害などで被害者が苦しんでいて子どもも試行面会期日前後に体調を崩すようなケースでも、家裁では「とにかく会わせろ」と迫る傾向が強まっている気がしてなりません。

それでも、たとえば今まで主たる監護者でもなかったのに、子どもを囲い込んでしまった親も確かにいて、そんな親にせめて面会交流くらいしろ、という意義があるではないか、ともききます。ただ、そんな場合に、一転して囲い込んだ親が「当事者に義務づけられたんだ、じゃあやらなくては」と素直になるかというと、そう楽観もできない。

やはり、当事者間にポンと努力義務を課してすむ話ではなく、取り決めるための手続を充実しなければならないのです。そういう場所はやはり今のところ家裁なのではないかと思います。家裁、家事事件手続をどのように充実させるか、そのあたりは全く書かれていません。

公的なサポートもなく、「とにかくやれ」という事態になるのではないかと心配です。

(編集部注:民法766条の改正→協議離婚の際に、「子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と定められた。

ーーDVや虐待については「特別な配慮」として強制の対象外となるようだが。

その文言では、どのような仕組みのもとどのように扱われるのか、全く不明であり、不十分でしょう。DVや虐待は立証するのが難しい。また「DV の場合は、子どもと会わせなくていいのでは」という認識が一般にあるかもしれないが、DVも虐待なのですが(児童虐待防止法2条4号)、全く別に解釈されているかのようで、家裁でもDVがあるケースも、特段支障がないかのように面会交流を求められることも珍しくありません。

ーーなぜ、この改正により実務に影響が出てきてたのか

面会交流が明確に記載されたことで、面会交流は「禁止・制限すべき特段の事情」がない限り、実施すべきという運用になりました。その考え方自体は、おかしくはないと思います。しかし、「特段の事情」の立証が非常にハードルが高くされ、個別事情をほぼ考慮しないかのような硬直的な運用をされてしまうことがあり、戸惑うこともあります。

DVは保護命令が出ていたら、数年前は、面会交流の実施は慎重にしなくてはいけないという共通理解があったと思います。しかし、現在は、そのような場合でも、調停委員から、「保護命令期間が解除されたらいつ面会を実施するか」などとあっさりきかれます。

せめて、DVの事実を認め、被害の深刻さを認識するようになってくれなければ、面会交流の実施に最低限必要な信頼関係が築けないのではないでしょうか。

しかし、現状では、たとえ保護命令が出て、あるいは離婚の裁判でDVが認定された後も、加害者が「やっていない」と否認し続け、暴力が被害者と子どもへ与えた影響を反省できていないような状況にあっても、とにかく面会交流を実施しろ、といわれもします。何か、もう少し振り返り(反省)の機会などが必要ではないかと思います。

法案では9条で「児童に対する虐待、配偶者に対する暴力」がある場合には、「子の最善の利益に反することとならないよう特別の配慮がなされなければならない」などと文言が加えられたところで、実務で、「特別な配慮」がなされるかどうかは疑問です。

(以上、前編。後編の「【親子断絶防止法案】打越弁護士『親のためではなく、子どものための法案を』はこちら→ https://www.bengo4.com/c_3/n_5434/

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

打越 さく良
打越 さく良(うちこし さくら)弁護士 さかきばら法律事務所
離婚、DV、親子など家族の問題、セクハラ、子どもの虐待など、女性、子どもの人権にかかわる分野を専門とする。第二東京弁護士会所属、日弁連両性の平等委員会・家事法制委員会委員。夫婦別姓訴訟弁護団事務局長。

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