既婚女性に食事に誘われたが、相手の夫に訴えられないか不安があるーー。弁護士ドットコムに独身男性からこのような相談が寄せられている。
相談者によると、女性は「夫の許可を得たから大丈夫」と話しているという。下心はないものの、万が一道を踏み外してしまったら…そんな不安もあるようだ。女性は一対一の食事を希望しているという。
既婚者と2人で食事に行くことに本当にリスクはないのか。長瀬佑志弁護士に聞いた。
●不貞行為に至れば、慰謝料請求される可能性はある
――もし食事後に既婚女性に誘われ、不貞行為に至ってしまった場合、女性の配偶者から慰謝料請求等される可能性はありますか。
夫婦は、互いに婚姻共同生活の平和を維持する権利や利益を有しています。不貞行為をおこなってしまった場合には、原則として不貞の被害者である女性の配偶者の婚姻共同生活の平和を害したとして、この権利や利益を侵害していると判断され、不法行為にあたります。
たとえ誘われた側だったとしても、相談者が女性と不貞行為をおこなえば、誘った女性と共同して婚姻共同生活の平和を害したといえます。そのため、配偶者は、女性だけではなく相談者にも慰謝料を請求することができます。
一緒に不貞行為をおこなっている以上は、誘われたか否かにかかわらず、相手の配偶者から慰謝料請求等される可能性は十分考えられます。
●2人での食事…場合によっては「不貞」に?
――既婚者と2人で食事に行くこと自体に法的なリスクはあるのでしょうか。
2人で食事に行くだけであれば、性的関係を有したわけではなく、法的リスクはないと思うかもしれません。
「不貞」が不法行為に該当する理由は、先述したように、婚姻共同生活の平和の維持という権利または法的保護に値する利益を侵害することにあります。この観点から考えれば「不貞」を肉体関係に限定する必要はなく、類型的に婚姻共同生活の平和を侵害する蓋然性のある行為かどうかを基準とすべきと解されます。
不法行為にあたる「不貞」とは、具体的には以下の内容を指すと考えられています。
(1)性交または性交類似行為 (2)同棲 (3)上記のほか、他方配偶者の立場に置かれた通常人を基準とした夫婦間の婚姻を破綻に至らせる蓋然性のある異性との交流・接触 (安西二郎「不貞慰謝料請求事件に関する実務上の諸問題」『判例タイムズ』No.1278、2008年、45-64ページ)
上記『判例タイムズ』では(3)に該当する可能性がある例として、2人で食事や遊びに行く程度の交際でも以下が挙げられています。
・以前に肉体関係があった場合
・非常に頻繁である場合
・他方配偶者にとって大切な日や配偶者の助力を必要とする時期におこなわれている場合
・他方配偶者に見せつけるような態様でおこなわれている場合
・他方配偶者が交際をやめるよう告げた後も続いているなどの事情がある場合
したがって、既婚者と2人で食事に行く前後の経緯によっては「不貞」にあたり、女性の配偶者から慰謝料請求をされるリスクはあります。
――「夫の許可を得た」との発言がウソだった場合はどうなりますか。
その場合、相談者は女性と一緒に食事に行ったことについて「『不貞』行為をしているという故意はなかった」と言いやすくはなるでしょう。
しかし、故意はなくとも過失があれば不法行為にあたります。そのため「夫の許可を得た」発言がウソだと容易に分かる場合でも、過失が認められる可能性はあります。女性の夫から訴えられるリスクが「一切ない」とまでは断言できないことに注意しましょう。
食事の場所や時間帯等によっては、2人で食事をしていたことが「性的関係を有したはず」という間接事実と捉えられ、それを理由に女性の夫から訴えられるリスクも考えられます。