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結婚20年、妻が離婚を決意した日 高熱で寝込んでいる妻に「俺の飯は?」と言った夫
写真はイメージです(cerisier117 / PIXTA)

結婚20年、妻が離婚を決意した日 高熱で寝込んでいる妻に「俺の飯は?」と言った夫

離婚を考える人の中には、配偶者の「モラハラ」に悩む人が少なくありません。これまで大貫憲介弁護士が出会った依頼者の話をもとに、ある典型的なモラハラ離婚事例を紹介します。

●「子どものため」「家庭を守るため」我慢重ね

「俺の飯は?」。妻のAさん(40代後半)が高熱で寝込み、食事の用意がないことがわかると、夫はまず食事の支度を催促した。第1子出産から、間もない頃のことだ。それ以降、Aさんは、常に夫の食事を優先に考えてきた。

ところで、弁護士として、離婚を希望する女性たちの話を数多く聞き、日本の夫の多くが横暴であり、妻たちが、「子どものため」「家庭を守るため」、我慢していることに気が付いた。

いや、夫の横暴も、妻たちの我慢も、昔から知っていたが、見過ごしてきたといった方が正確だ。結婚や離婚について、妻の立場から考え始めると、そこには、それまで見えていたものとは、全く違う風景があった。

冒頭の例のように、妻の体調が悪くても、モラ夫(モラハラする夫)たちは、まず、自分の食事を心配する。妻も「具合が悪くて…ごめんね」などと謝罪する。対等な関係のパートナーであれば、妻の容態を真っ先に心配するべきだ。そして、大人なのだから、自分と妻の食事を作ればよい。

ところが、離婚案件で遭遇するモラ夫は、「俺の飯」だけを問題とし、食事の用意がないことを知ると、怒って出て行くこともある。その後、数日間、ガン無視をするモラ夫も少なくない。

Aさんによると、夫は食事が気に入らないと、お皿に乗っている食事をそのままゴミ箱に捨てるという。常に温かい料理を要求し、冷たいと箸もつけない。

Aさんは、夕方に避けられない用事があると、夫の食事を用意して出かける。20年近く夫の世話を続けてきたが、夫が感謝を示すことはほぼない。反対に、「俺の母さんの料理はもっとうまい」「お前は料理が下手くそだ」などと、よくディスられる。

ある晩、夫は、突然怒り、食卓に並んだ皿を料理ごと投げつけた。Aさんは、黙って、割れて散らばった皿の破片を拾い、料理で汚れた床を拭いた。そのとき、不思議と涙はこぼれなかったという。

●モラハラの背景には何が?

離婚案件では、このような話はありふれている。

その背景にあるのは、前回ご紹介した「教女子法」(1710年)の女性に対する人生訓「夫を主君として、敬い慎みて仕えよ」「家事に専念し、遊びに行くな」に始まる「男尊女卑」「良妻賢母」などの社会的文化的規範群だろう。私は、これらを「モラ文化」と呼んでいる。

こうした教えが刷り込まれ、Aさんも夫も、日本社会の規範群に従って行動している。その結果、モラ夫たちは、自らの横暴に自覚はなく、自省することもない。多くの妻たちは、我慢し、耐え忍んでしまう。

モラハラの背景にあるこれらのモラ文化を変えなければ、不幸な結婚や離婚は増え続けるだろう。そして、若い女性たちは、結婚に希望を持てず、生涯未婚率は上がり続けるだろう。

私は、モラ文化を変えなければ、日本の少子高齢化、日本社会の没落は止まらないと確信している。そもそも、男性も女性も幸せになるために結婚するのであって、我慢し耐え忍ぶためではない。モラハラが続くと、妻の心は夫から離れていく。離婚に至ることもある。その結果、モラ夫も不幸になる。モラ文化は、決して誰も幸せにしない。

皿投げ事件の後、数日間、Aさんは、怒りも悲しみも感じなかったという。ところが、数日後、買い物に向かう道で、突然、熱い涙があふれ出て止まらなくなった。自分の異変に気付き心療内科を訪れ、「夫を原因とする適応障害」と診断され、私の事務所に相談に来た。

Aさんは、将来に迷い、数回法律相談を繰り返した。その後、離婚し、現在は子どもたちと暮らし、毎日笑って過ごしているという。

プロフィール

大貫 憲介
大貫 憲介(おおぬき けんすけ)弁護士 さつき法律事務所
1989年4月弁護士登録。外国人事案、結婚離婚等家事事案を中心に弁護士業務を行ってきた。2018年3月から、ツイッター(@SatsukiLaw)にて、「モラ夫バスター」として、モラ夫の生態について、日々ツイートし、4コマ漫画「モラ夫バスター」などで主に被害妻に向けた情報発信を行っている。ハーバービジネスオンラインでは、「モラ夫バスターな日々」の連載をしてきた。

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