身体的にも経済的にも大きな負担がかかる体外受精。精子と卵子を体外に取り出して受精卵を作り、女性の体に着床させる方法だが、100%の成功率は保証されないこともあり、夫婦にとっては大きな試練となる。
しかし、弁護士ドットコムに相談を寄せた女性の場合、体外受精から晴れて妊娠となったが、夫から「中絶と離婚を要求されました」と言う。不妊治療を続けてきた最中の、まさかの離婚要求に驚いたところ、夫は別の女性と不倫関係にあることが判明した。
そこで「子どもができた途端に中絶と離婚を言い渡され、精神的に参ってしまった。相談者は「取れるだけ夫と女(不倫相手)から慰謝料をとりたい」と質問を寄せた。
相談者は離婚に応じざるをえないと考えているようだ。このような場合、慰謝料の金額はどのくらいになるのだろうか。また有責配偶者からの離婚要求となるが、もし相談者が拒否した場合には、裁判ではどのように判断されるのだろうか。田中真由美弁護士に聞いた。
●心の傷はプライスレスだが…
——心中察するに余りある状況です。
相談者としては、精神的にも肉体的にも負担のかかる不妊治療を乗り越えてやっと妊娠ができて喜んでいたところを、夫と不倫相手に突き落とされた、という心情だと思います。
ただ、不妊治療の末、妊娠できた胎児を中絶するように言われたということについて、慰謝料として金額の加算ができるかと言うと、裁判などでは大きな加算は難しいと思われます。
一方、「調停」は話し合いですので、その点についての苦痛を考慮してほしいと提案することは可能です。
——慰謝料の金額は具体的にどのくらいになるのでしょうか。
今回のケースは、夫の不貞行為が大きな原因になりますので、その点について慰謝料を請求していくことになります。交渉や調停では200〜300万円の支払いを請求していくことが多いです。
裁判まで進み、判決または和解になる場合には、具体的な事案にもよりますが、200万円前後での解決になることが多いです。
●裁判になれば、夫からの離婚請求は認められない可能性が高い
——夫からの離婚要求を相談者が拒否した場合、裁判ではどのように判断されるのでしょうか。
離婚事由について責任のある者(有責配偶者)からの離婚請求は、これを無制限に認めると、相手の方配偶者は「踏んだり蹴ったり」になることから、判例では一定の条件を満たす限りで認めています。
判例のいう具体的条件は、(1)夫婦の別居が長期にわたっている、(2)夫婦間に未成熟の子がいない、(3)離婚によって、相手方配偶者が精神的、社会的、経済的に過酷な状況にならない、です。
今回のケースについては、同居期間や別居期間、妊娠した子どもが生まれた場合などの事情次第ではありますが、もし裁判になった場合、夫からの離婚請求は認められない可能性が高いと考えます。
もっとも、相談者は離婚に応じざるをえないと考えているようですので、仮に裁判になったとしても、「夫が慰謝料を支払う」などの内容で和解し、離婚が成立することも考えられるでしょう。