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もう顔も見たくない! 夫婦ゲンカで「家出」を決意した妻、法的なリスクはある?
写真はイメージです(にこまる / PIXTA)

もう顔も見たくない! 夫婦ゲンカで「家出」を決意した妻、法的なリスクはある?

「妻(夫)が家出しました」。ネット上に、このような投稿が見受けられる。家出の期間は数日から1週間程度で家に戻ってくる「プチ家出」の場合もあれば、長期に渡るケースもあるようだ。

弁護士ドットコムにも「家出を決意した」という女性から相談が寄せられている。

相談者は、結婚して2年。夫とは喧嘩が耐えなくなり、離婚話も出るようになった。「夫の顔も見たくない」と考えている相談者は、1カ月ほど家出することを決意した。

夫には行き先を教えず、家出中は連絡を断つことを考えている。ただ、夫が仕事でいない日は自宅に戻り、掃除や洗濯などの家事をおこなうことも検討しているという。

●家出は「悪意の遺棄」にあたるのか?

しかし、相談者は、実際に家出を決行した場合は「悪意の遺棄」にあたるのではないかという不安も感じているようだ。

そもそも「悪意の遺棄」とはどういうものか。村木亨輔弁護士は「悪意の遺棄は、裁判上の離婚原因として、民法770条1項2号で定められた事由のことです」と説明する。

「夫婦には同居義務が課せられています(民法752条)。もちろん単身赴任のように、同居できないことにきちんとした理由がある場合であれば、同居義務に違反しているわけではないので、悪意の遺棄として問題となることはないでしょう。

他方、正当な理由もなく、一方的に家出して別居に至ったような場合であれば、同居義務に違反し、悪意の遺棄とみなされるおそれがあります」

相談者の場合は、夫との喧嘩が原因で離婚話が出るようになり、家出を決意したようだ。このような場合も「悪意の遺棄」とみなされてしまうのだろうか。

「今回のケースにおいては、別居の目的は冷却期間を設ける点にあると思われます。

しかし、あまり別居が長期にわたってしまうと、別居の正当性が失われて『悪意の遺棄』と評価されたり、裁判上の離婚原因である『婚姻関係を継続しがたい重大な事由』と見なされたりするおそれがありますので注意が必要です。

他方、別居後もたまに自宅に帰って家事をする点は、婚姻関係を維持する目的といえそうです。そのため、このことはむしろ悪意の遺棄であることを否定する事由といえるでしょう」

●家出が「悪意の遺棄」とみなされた裁判例も…

実際に、家出を繰り返したり、長期間にわたる家出をしたりするなどして、「悪意の遺棄」にあたるとされたケースはあるのだろうか。

村木弁護士によると、数は多くはないものの、悪意の遺棄として認められた裁判例があるという。

「悪意の遺棄として認められた裁判例としては、たとえば、

・妻が夫の不品行(夫は家をあけて遊び回ったり、愛人をつくったりしていた)の改悛を促すために住居を離れたところ、その後、夫が行方も告げずに家出し、妻に対して生活費の仕送りなどをしなかった事例(大阪地裁昭和26年6月5日判決判タ16号55頁)

・夫が半身不随の妻を置き去りにして、長期間、生活費すら渡さなかった事例(浦和地裁昭和60年11月29日判決判タ596号70頁)

・妻が婚姻後1年足らずで精神病の夫のもとを去って実家に戻り、その後10年以上の歳月を経るも、その間に夫と生活を共にする努力をせず、むしろ傍観的態度を取り続けた事例(岐阜地裁昭和31年10月18日判決・判報93号19頁)

などがあります」

●「頭を冷やす」ための別居でも、まずは「気持ちを伝える」

  相談者に限らず、「頭を冷やしたい」などの理由で家出し、実家に帰ったり、外で泊まったりすることを考える人もいる。しかし、実際に行動にうつす際には注意すべきこともある。村木弁護士は、つぎのようにアドバイスする。

「上述のとおり、一方的に別居に踏み切って配偶者との同居を拒絶する場合や、別居が長期に至るような場合は、裁判上の離婚原因である『悪意の遺棄』や『婚姻を継続し難い重大な事由がある場合』と評価されるおそれがあります。そもそも、理由もなく別居に踏み切ること自体、夫婦仲に不和を生じさせるおそれがあるといえます。

そのため、冷却期間の趣旨で別居を選択するにせよ、先だって配偶者ときちんと話し合ってから別居するのがよいといえます。

もちろん、直接、口頭で伝えると、かえって喧嘩に発展してしまい、まともな話し合いができないかもしれません。ですが、そのような場合でも、せめて手紙やメールなどを用いて、まずはご自身のお気持ちをパートナーに伝えてみてはどうでしょうか」

プロフィール

村木 亨輔
村木 亨輔(むらき きょうすけ)弁護士 虎ノ門法律経済事務所 神戸支店
虎ノ門法律経済事務所神戸支店の支店長弁護士。東京本店を中心に、全国に31の支店があり、今後も各地に拡大する予定。本店支店間が相互に連携を取ることにより、充実したリーガルサービスの提供を可能とする。

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