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「子どもが欲しいの」協力を求められた男性の苦悩…「認知しない」約束の行方
画像はイメージです(YUMIK / PIXTA)

「子どもが欲しいの」協力を求められた男性の苦悩…「認知しない」約束の行方

不妊などの悩みを抱え、男性に「精子提供してほしい」と考えている夫婦やカップル。中には、年齢などの事情から「結婚はしていないけれども、子どもは欲しい」と考え、精子提供をのぞむ人もいるようだ。

ところが、実際に精子提供を依頼したことで、トラブルに発展するケースもあるかもしれない。実際、弁護士ドットコムにも子どもの認知をめぐり、トラブルになったという相談が複数寄せられている。

ある相談者は、知人の女性に「養育費はいらないし、結婚、認知はしなくてよい。子どもだけ欲しいので、精子提供して欲しい」と頼まれ、何度も話し合った末に性行為をおこなった。二人は、認知をしないことについて、書面も交わしたという。

ところが、女性は妊娠すると「認知して欲しい。しないならば、調停を申し立てる」と相談者に言ってきたという。

また、別の相談者は夫が無精子症のため、第三者男性から精子提供を受けて生殖補助医療を用いることにしたものの、トラブルにならないか不安があるようだ。夫婦と第三者男性との間で、「認知しないこと、養育費など一切発生しないこと」などの約束をしたいと考えている。

精子提供をおこなった男性は、認知を拒否することはできるのだろうか。また、もし書面を作成した場合は認知を拒否する「根拠」となりうるのだろうか。川見未華弁護士に聞いた。

●「認知請求しない」約束はどうなる?

ーー1人目の相談者のように、精子提供をおこなった男性は、女性に認知請求された場合は認知を拒否することはできるのでしょうか

女性(「母」)が未婚者であり、血縁上の父である男性(「父」、相談者)に子を認知してほしいと考えたときは、「父」に対して、認知を求めることができます。

「父」と「母」との間で、「母」が認知請求をしないと約束していた場合であっても「母」は「父」に対して、認知を求めることができると考えるのが判例・多数説です。

認知請求権のような身分法上の権利は、放棄することができない等と考えられているためです。このことは、公正証書などの書面に「認知しなくても良い」などと残した場合も同様です。

●精子提供のための行為でも「不貞」に該当する恐れも

ーー出産する女性が結婚していた場合、予想されるトラブルは異なるのでしょうか   「母」が既婚者である場合は、嫡出推定(生まれた子は夫の子と推定される原則)が排除される事情のない限り、子は、「母」の配偶者(「夫」)の嫡出子となります。

そのため、「母」が血縁上の「父」に対して、子の認知を求めるためには、その前提として、嫡出否認等により「夫」と子との間の父子関係を否定する必要があります。

また、「母」が既婚者である場合は、「夫」が「父」に対して、不貞行為に基づく損害賠償請求を行うことも考えられます。精子提供のための行為だったとしても、それだけで、不貞行為該当性が否定されるわけではないと考えられるためです。

●生殖補助医療を用いる場合には?

ーー2人目の相談者のように、第三者の精子提供を受ける場合はどうなりますか

夫以外の第三者(ドナー)の精子提供を用いる人工授精は、AIDと呼ばれています。そして、AIDが、夫の同意を得て行われた場合には、生まれた子は夫の嫡出子と推定されます。

AIDに対する同意には、単に施術に対する同意にとどまらず、生まれた子の親になる意思も含まれると考えられるからです。夫は、いったん同意した後は、嫡出否認はできないと考えられています。

そのため、「母」の「夫」が同意をして実施したAIDにより生まれた子は、「夫」の嫡出子と推定されますから、精子提供者である血縁上の「父」が、子を認知することはできませんし、養育費を支払う義務を負うこともありません。

なお、日本でAIDが用いられる場合は、現在のところ、精子提供者は匿名とされているため、精子提供者に対して何らかの請求をすることは、実際上も困難と考えられます。

プロフィール

川見 未華
川見 未華(かわみ みはる)弁護士 樫の木総合法律事務所
東京弁護士会所属。家事事件(離婚、DV案件、親子問題、相続等)及び医療過誤事件を業務の柱としながら、より広い分野の実務経験を重ねるとともに、夫婦同氏制度の問題や福島原発問題等、社会問題に関する弁護団にも積極的に取り組んでいます。

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