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法律事務所「局部切断事件」で波紋・・・「社内不倫」に企業はどう対応すべきか?
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法律事務所「局部切断事件」で波紋・・・「社内不倫」に企業はどう対応すべきか?

妻の勤務先の法律事務所で働いている男性弁護士の局部を切断したとして、傷害などの罪で起訴された小番一騎被告人の第2回公判が11月下旬、東京地裁で開かれた。検察側の冒頭陳述で、犯行までの経緯が明らかにされた。

報道によると、妻は2014年5月から、被害に遭った男性弁護士の秘書として同事務所で働きはじめた。同年12月から男性弁護士と不倫関係になり、性的関係を持つようになったという。

しかし、妻の男性弁護士に対する感情は徐々に冷めていった。2015年8月、妻は、小番被告人から帰宅時間が遅いことを責められた際、「男性弁護士からセクハラを受けた」などとウソの説明をした。怒った被告人が枝切りばさみを購入した上で法律事務所を訪れ、犯行に及んだとされている。

今回は法律事務所を舞台に凄惨な事件が発生してしまったが、一般企業でも、社内不倫をきっかけに配偶者が会社に押しかけてくるなどのトラブルが起こることはある。もし社内不倫が明らかになった場合、会社はどんな対応をすべきなのか。当事者の社員を懲戒処分にすることはできるのか。企業法務に詳しい古金千明弁護士に聞いた。

●社内不倫は「懲戒処分」の対象になるか?

「私生活上の非行については、たとえ社内不倫であっても、懲戒処分の対象にならないのが原則です。

しかし、私生活上の非行であっても、社内秩序を乱したり、対外的に企業の信用を毀損するような場合には、懲戒処分の対象となりえます。

就業規則で、『素行不良で著しく社内の秩序または風紀を乱した』場合や、『私生活上の非行によって会社の名誉信用を損ない、業務に重大な悪影響を及ぼした』場合を、懲戒事由と定めていることも多いでしょう」

社内不倫が「社内秩序を乱した」かどうかは、どうやって判断されるのか。

「当事者の地位や職務内容、交際の態様、会社の規模・業態等に照らして、個別具体的に判断されることになります。

たとえば、部署が異なる従業員同士で社内不倫し、その事実が一部にしか知られていない場合には、社内秩序を乱した程度は重くはないと思われます。懲戒処分がなされるとしても、戒告、出勤停止、減給などにとどまる場合が多いでしょう。

他方で、社内不倫した従業員の配偶者が、会社に怒鳴り込んできて、会社の業務に著しい支障が生じたような場合には、懲戒解雇が相当と判断される場合もあるでしょう」

●社内不倫の「噂」が広まっている場合、会社はどう対処する?

社内不倫の噂が広まっているが、噂が事実かどうか分からない場合、会社としてどう対応すべきなのか。

「そのような場合、会社としては難しい対応を迫られます。社内不倫の事実関係が明らかではなく、単なる噂にとどまるのであれば、会社が社内不倫を理由に懲戒処分をすることはできません。

他方で、会社は、従業員にとって働きやすい環境を保つよう配慮する義務があります。社内不倫について事実と異なる噂が広がり、噂の対象となっている従業員が精神的苦痛を受けている場合には、『環境型セクハラ』にあたる可能性があります。

この場合には、私生活上の行為といえども、事実と異なる噂が流れることを防止するなどの対応をしないで放置していると、会社に何らかの責任が生じる場合があります」

ただ、会社が従業員の不倫を調査するのは、なかなか難しそうだ。

「もちろん会社には、原則として、従業員の私生活上の行為を調査する権限はありません。対象となる従業員のプライバシーに配慮しつつ、任意の調査をして事実確認をするしかないでしょう。

とはいえ、男女関係のトラブルは往々にして、感情的なもつれを引き起こすことがあります。調査権限がないからといって放置すると、今回のように事件にまで発展する可能性もあるので、注意が必要です。

会社としては、社内不倫をしている事実まではすぐに確認できないとしても、既婚の男女の社員同士が、業務上の必要性を超えて、二人きりで飲食を繰り返しているなどの『疑わしい』事実が確認できた場合には、口頭での注意や警告を与えるなどの予防策を講じる必要性が出てくる場合もあるでしょう」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

古金 千明
古金 千明(ふるがね ちあき)弁護士 天水綜合法律事務所
「天水綜合法律事務所」代表弁護士。IPOを目指すベンチャー企業・上場企業に対するリーガルサービスを提供している。取扱分野は企業法務、労働問題(使用者側)、M&A、倒産・事業再生、会社の支配権争い。

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