高知県須崎市のマスコットキャラクター「しんじょう君」に酷似し、著作権を侵害しているなどとして、市は2月6日、ゆるキャラ「ちぃたん☆」を運営している芸能プロダクション(東京都)に対し、活動停止を求めたと発表した。
ÒㅅÓ。)ノみんなーおはよー☆ちぃたん☆ちゃんがゆるキャラグランプリにでてるよー☆しんじょう君的にはみんな応援してるけど、ちぃたん☆ちゃんも応援してあげてね☆ね☆https://t.co/lYkMS4KB3h pic.twitter.com/krHuDLKl2D
— しんじょう君〓〓2/23.24栃木 (@susaki_city_PR) 2018年8月20日
しんじょう君は2013年2月、公募でデザインが決定。絶滅種指定されたニホンカワウソがモデルで、4月から活動を開始し、2016年の「ゆるキャラグランプリ」で優勝した。
一方、ちぃたん☆は2017年12月、秋葉原出身のコツメカワウソの妖精として誕生。トランポリンから宙返りで落ちるなど激しいアクションがSNSで話題となっている。
2019年1月にはツイッターで「一年間お世話になった須崎市の観光大使を卒業することになりましたっ☆」と報告しているが、須崎市はそもそもキャラクターの「ちぃたん☆」には観光大使を委嘱しておらず、ちぃたん☆のモデルになった同じ名前のコツメカワウソに委嘱していたとしている。
一年間お世話になった須崎市の観光大使を卒業することになりましたっ☆ありがとうございましたっ☆
— ちぃたん☆ (@love2chiitan) 2019年1月16日
卒業しても須崎市が大好きでしんじょう君ともお友達ですっ☆
これからしんじょう君とコラボグッズも予定しているので楽しみにしていてくださいねっ☆ちぃたん☆ですっ☆ pic.twitter.com/uVfF4xXOeY
しんじょう君とちぃたん☆は同じデザイナーが手がけており、見た目も似ていることから、かねてから須崎市にはちぃたん☆に関する苦情が間違って寄せられていた。毎日新聞(1月16日)によると、市に「危ない」などの批判が計100件以上あったという。
須崎市は今回、ちぃたん☆を運営している芸能プロダクションが著作権を侵害し、不正競争にも該当すると主張している。今回の騒動、法的にはどう考えたら良いのだろうか。佐藤孝丞弁護士に聞いた。
●著作権侵害にあたる?
ーー著作権侵害にあたるのでしょうか
須崎市は、ちぃたん☆の使用等の行為が、しんじょう君に係る著作権のうち、イラスト、着ぐるみ等の翻案権(著作権法27条)、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(28条)としての複製権(21条)、公衆送信権(23条)、譲渡権(同26条の2)などを侵害していると主張しています。
しんじょう君は、ニホンカワウソをモデルに全国からデザインを募集して誕生しています。須崎市が著作者であるデザイナーから著作権を譲り受けているとすれば、しんじょう君の著作権者は、須崎市になります。
ちぃたん☆のデザインがしんじょう君に依拠しており、かつ類似していると言えれば、著作権侵害となります。
ーー「しんじょう君」と「ちぃたん☆」のデザイナーは同じようです
デザイナーが同一人物であり、発表された順番を考えると、依拠性が認められると思われる一方で、芸能プロダクション側からは、ちぃたん☆は、しんじょう君でなくあくまで同名のコツメカワウソをモデルにしたに過ぎないとの反論がありえます。 また、芸能プロダクション側の主張によると、デザイナーを紹介したのは須崎市側であるとのことですから、ちぃたん☆の製作経緯等についての事情を知っている可能性はあります。
●類似性はどんな時に認められるのか
ーーデザインが類似しているかどうかは、どう判断するのでしょうか
著作権侵害が成立するレベルで似ているかどうかは、「既存の著作物の表現形式上の本質的特徴部分を、新しい著作物からも直接感得できる程度に類似しているか」という基準で判断されます。
ポイントになるのが「本質的特徴部分」というところです。動物をモデルにしたデザインですと、類似している部分が本質的特徴部分といえると認められるハードルが高い傾向にあります。
結局は、具体的な事実関係や評価によって結論が分かれると思われますが、しんじょう君のデザインは、他のカワウソのデザインと比べ、顔や体格等に関するカワウソの外観の誇張部分に大きな特徴があると考えられるところ、当該部分について、ちぃたん☆と共通点が多数存在するなどの観点から、両者の類似性が認められる余地はあると考えます。
著作権侵害が肯定されれば、須崎市は、芸能プロダクション側に対して、ちぃたん☆の使用差止め等を求めることができます(著作権法112条1項)。一方で、芸能プロダクション側は、ちぃたん☆の製作段階及びその後複数回須崎市側に権利侵害の有無を確認の上、許可が不要との回答を得ているとの主張をしていますので、この点が真実であれば、著作権侵害が成立しない可能性があります。
●不正競争防止法違反にあたる?
ーー不正競争防止法違反にあたるのでしょうか
不正競争防止法は、例えば、商標出願をして商標登録することで生じる商標権侵害の主張ができなくても、一定の条件を満たす場合に、発売した商品などが他人の侵害行為から保護されるものです。
須崎市は、ちぃたん☆の使用が、不正競争防止法上の(1)著名表示冒用行為及び(2)周知表示混同惹起行為に該当すると主張しています。
まず、(1)著名表示冒用行為(不正競争防止法2条1項2号)の適用要件を満たしているかを検討します。
この「著名」というのは、全国的に知られている程度をいいます。しんじょう君は、ゆるキャラグランプリの上位に継続的に入った上で優勝までしていることからすれば、「著名」な「商品等表示」の要件を満たす可能性があります。
次に、(2)周知表示混同惹起行為(同法2条1項1号)についても、しんじょう君は、「需要者の間に広く認識されている」「商品等表示」であると考えます。これは(1)の「著名」と異なり、いち地方で知られている状態があれば足りるとされます。
そして、(1)と異なり、(2)については、一般人を基準にして「混同を生じさせる」おそれがあるといえることが要件となっています。実際に混同が生じていることは必要ありません。
この要件に該当するか否かは、具体的な事情により異なりますので、非常に判断が難しいところです。実際の訴訟などにおいては、広告宣伝の状況やアンケート調査等によって立証を試みることがあります。
●共通の要件は「類似しているか」
加えて、上記(1)著名表示冒用行為、(2)周知表示混同惹起行為に共通の要件があります。
まず、しんじょう君とちぃたん☆とが類似しているという必要があります。
ーー何をもって類似というのでしょうか
類似といえるかは、「取引の実情において、需要者(今回のケースでは一般消費者)が両者の称呼(呼び方)・外観(見た目)・観念(意味)に基づく印象等から、両者を全体的に類似のものとして受け取る恐れがあるか否か」という基準で判断します。
この判断は上記と同様に非常に難しいですが、個人的には、上記で述べた両者の外観の共通点や、ちぃたん☆自身がしんじょう君と友達であると言及しているといった事情から、類似とみる余地があると考えます。
次に、先ほど書いた適用要件の(1)しんじょう君が「著名」になる(著名表示冒用行為)、または(2)「需要者の間に広く認識される」(周知表示混同惹起行為)前から、ちぃたん☆が使用されてきたことが立証されれば、(1)と(2)はともに適用されません(同法19条1項4号、同3号)。
この場合のうち(2)については、須崎市は、混同を防ぐために適当な表示を付すことを請求できる可能性があります(同法19条2項)。
上記の各要件をすべてクリアすれば、須崎市は、ちぃたん☆の使用の差止等を求めることができます(同法3条)。なお、著作権侵害と同様、須崎市がちぃたん☆の使用を許可不要としていた事実があるのであれば、不正競争防止法違反を理由とする対応はできません。
●商標権侵害は?
ーー商標権の観点からはどうでしょうか
しんじょう君は、須崎市により商標登録されています(登録第5978539 号)。一方で、芸能プロダクション側は、ちいたん☆の商標出願を日本及び海外でしています(日本においては、商願2017-165376、商願2018-143025、商願2018-143026)。
しかし、1つ目の商願2017-165376については、他人の登録に類似する商標(商標法4条1項11号)であることを根拠に、拒絶理由通知書が発送されています。
しんじょう君の商標権者である須崎市は、今のところ、商標権侵害の指摘はしていないようですが、須崎市からすれば、この規定に該当するという判断が特許庁から出ている以上、ちぃたん☆の使用行為が商標権侵害を構成するとの疑念も抱いているのではないかと思われます。