2018年08月27日 15時18分

橋下氏、有田氏を訴えた名誉毀損訴訟で敗訴…初適用の「危険の引き受けの法理」とは?

橋下氏、有田氏を訴えた名誉毀損訴訟で敗訴…初適用の「危険の引き受けの法理」とは?
会見を開いた有田芳生議員

前大阪市長の橋下徹氏が、有田芳生参院議員から名誉を傷つけられ、精神的な苦痛を受けたとして、慰謝料を求めていた訴訟で、大阪地裁は8月8日、橋下氏側の請求を棄却する判決を言い渡した。有田氏側の代理人をつとめた神原元弁護士によると、「危険の引き受けの法理」とよばれる考え方が、名誉毀損の分野で適用された初めての判決だという。はたして、どのような考え方なのだろうか。

●有田氏「1回だけ出演して降板させられた腹いせではないかと思う」とツイート

判決によると、橋下氏は2017年7月、プレジデントオンラインで、「有田芳生の人権面は偽物だ」と題して寄稿。「こいつだけはほんと許せないね」「有田は自分が嫌いな相手(僕)の出自が公になることは面白く、自分の所属する党の代表の、ちょっとした戸籍情報が開示されることはプライバシー侵害になり、人権問題にもなるから許されないと言うんだ。典型的なダブルスタンダード!」とつづった。

この寄稿をめぐって、有田氏は同月、「『ザ・ワイド』(編集部注:日本テレビ系列のワイドショー番組・2007年9月放送終了)に1回だけ出演して降板させられた腹いせではないかと思えてしまう」とツイッター上に投稿した。橋下氏は同年8月、この投稿によって、能力に関して否定的な印象を与え、社会的評価を低下させられたとして、提訴していた。

大阪地裁の吉岡茂之裁判長は、有田氏のツイートは、橋下氏の社会的評価を低下させたとしながらも、(1)「ザ・ワイド」はすでに放送終了している、(2)ツイートがきっかけで、橋下氏への講演依頼が顕著に減少した事実は見当たらない、(3)ツイートは、意見ないし論評の域を逸脱するものではなく、人身攻撃に及ぶような内容が含まれていない――などとして名誉毀損の程度は限定的にとどまるとした。

吉岡裁判長はそのうえで、さらに「危険の引き受けの法理」を適用した。

●「危険の引き受けの法理」は、スポーツ分野で適用されたケースがあった

それでは「危険の引き受けの法理」はどういうものだろうか。大阪地裁は判決の中で、次のように述べている。

「インターネット上やテレビ番組等不特定多数の者が見聞することが可能な環境において、自分と政治的意見や信条を異にする相手方を非難するに当たり、ときに相手を蔑み、感情的又は挑発的な言辞を用いる表現手法は、これに接する不特定多数の者に対して、自己の意見等の正当性を強く印象付ける一定の効果が得られることは否定できない。

しかし、反面、非難された相手方をして意見や論評の枠を超えた悪感情を抱かせるおそれがあることもまた見やすい道理である。そうであれば、表現者が上記の表現手法をもって相手方を非難する場合には、一定の程度で、相手方から逆に名誉棄損や侮辱に当たるような表現による反論を被る危険性を自ら引き受けているというべきである」

要するに、違法行為による損害を受ける危険をみずから引き受けて行動した人は、それによる損害の賠償をもとめることができない、というものだ。神原弁護士によると、これまで刑事事件のほか、ダイビングやスキーなど、スポーツ分野の民事事件で適用されたケースはあったという。

●橋下氏は、判決を不服として控訴している

有田氏が「1回だけ出演して降板させられた〜」と投稿するまで、次のような経緯があったとされている。

・有田氏は2012年10月、橋下氏の出自に関するルポ(佐野眞一氏によるもの)が掲載された「週刊朝日」について「すこぶる面白い」と投稿した。

・橋下氏はこの投稿を受けて、ツイッター上で、有田氏について「こういう自称インテリが一番たちが悪い」「税金でいったいどれくらいの歳費が払われているか。もう嫌になっちゃうよ」と投稿した。

・橋下氏は2017年1月、「日本では有田芳生参議院議員なんて、僕の出自を差別的に記事にした週刊朝日について『面白い!』と大はしゃぎ、それで自称人権派だって。笑わせてくれるよな。最低な奴」と投稿した。

このような経緯を受けて、大阪地裁は「橋下氏はインターネットで、有田氏を非難するにあたり、蔑み、感情的または挑発的な言辞を数年間にわたって繰り返し用いてきたというものというほかはないから、一定の限度で、有田氏から名誉を棄損されるような表現で反論される危険性を引き受けていたものといわねばならない」とした。

だが、「危険の引き受けの法理」の適用をめぐっては、弁護士からも、権力者や差別主義者などに「悪用されるのではないか」と危惧する声も見られる。神原弁護士は「(判決は)誰から罵られていいとまでいっているわけではない」として、その影響が限定的なものにとどまるという認識を示している。橋下氏側は、判決を不服として控訴している。

(弁護士ドットコムニュース)

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