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「トイレ行きたい」と訴えても「所持品検査」続行、覚せい剤所持でも無罪になったワケ
画像はイメージです(Skylight/PIXTA)

「トイレ行きたい」と訴えても「所持品検査」続行、覚せい剤所持でも無罪になったワケ

覚せい剤取締法違反(所持・使用)の罪に問われた男性の裁判で、さいたま地裁は7月下旬、男性が「トイレに行きたい」と訴えたにもかかわらず、警察官が所持品検査をつづけたことは違法だとして、無罪(求刑:懲役4年)の判決を言い渡しました。

男性は2017年11月、さいたま市内の駐車場で、2人の警察官から職務質問を受けました。その際、男性は「トイレに行きたい」と訴えたのですが、警察官は証拠隠滅のおそれから、立ちふさがって、男性が公衆の面前で排便をした後も所持品検査をつづけて、覚せい剤を提出させたということです。

さいたま地裁の裁判官は「職務質問の所持品検査として許容される限度を大きく超えて違法だ」として、男性を無罪としました。今回のケースについては、インターネット上で、所持品検査をつづけなければ、<証拠隠滅となったおそれがある>という内容のコメントがありました。

●どんな手段の捜査をしてもよいわけではない

たしかに、所持品検査をつづけなければ、証拠隠滅のおそれは考えられます。しかし、そうだからといって、どんな手段の捜査をしてもよいことにはなりません。警察官による職務質問の法律上の根拠として、警察官職務執行法2条1項があり、次のように書かれています。

「(1)異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者、(2)既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者に対して、停止させて、質問できる」(警察官職務執行法2条1項)

また,「職務質問を受ける者は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない」(同法2条3項参照)、との規定もあります。

少なくとも、これらの規定に反して行われた職務質問は、違法になりえます。

●所持品検査についても要件が満たされないと「違法」となりうる

つづいて、所持品検査について説明します。所持品検査とは、職務質問に際して、相手方の衣服や所持品を検査する行為をいいます。所持品検査については、法律上の明文規定はありませんが、職務質問に付随する捜査として認められています。

相手方の同意を得ておこなう所持品検査は、適法な捜査であるといえます。しかし、一定の場合には、相手方の同意を得ずに所持品検査ができる場合があります。

過去の最高裁判所判決において、次のように判示されています。

「職務質問に付随して行われる所持品検査は所持人の承諾を得て、その限度においてこれを行うのが原則であるが、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、所持品検査の必要性、緊急性、これによって侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況の下で相当と認められる限度で許容される場合がある」(最判昭和53年6月20日・刑集32巻4号670頁)

所持品検査についても、上記の要件が満たさなければ、違法な捜査であると判断されてしまうことがありえます。

●「違法収集証拠」は排除される

職務質問や所持品検査が「違法」であっても、「一部有罪」になることがあります。どのような基準があるのでしょうか。

今回のケースでは、男性が所持していた覚せい剤が違法収集証拠にあたるとして、犯罪事実を認定する証拠から排除されました。

違法収集証拠排除法則とは、裁判所によって採用される一つの判断方法です(最判昭和53年9月7日刑集32巻6号)。裁判所は判決の中で次のように述べています。

「憲法35条及びこれを受けた刑訴法218条1項等の所期する令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては、その証拠能力は否定されるべきである」

このように、裁判所は、違法収集証拠排除の具体的な基準を示しています。

つまり、(a)令状主義の精神を没却するような重大な違法と(b)将来における違法な捜査の抑制の見地から相当ではないと裁判所に認められてはじめて、違法収集証拠として、その証拠が排除されることになります。

●将来の捜査にも「行き過ぎ」を防ぐ効果が期待できる

今回の判決は、警察官が公衆の面前で排便する被告人を前にして、なおも所持品検査を継続しておこないました。このような捜査に行き過ぎが認められたという事例です。

これまでも、排尿に関する事例は見られたと思います。しかし、今回のように、便意を催す被告人に排便をさせず、公衆の面前で排便をさせてしまった事例は、過去にあまりみられなかったと思われます。

その意味で、今回の判決が新たな事例に対する判断をおこなったものとして、意義があると考えられます。

そして、今回のケースのような警察の捜査が違法と判断されたことによって、将来における捜査についても、行き過ぎを防ぐという効果が期待できる判決になると考えられます。

(弁護士ドットコムニュース)

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