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「夫婦別姓が認められないのは国家的損失」青野氏、初弁論で経営者の視点から問題提起
夫婦別姓訴訟の第1回口頭弁論を終えて会見を開いた青野慶久氏(左)と作花知志弁護士

「夫婦別姓が認められないのは国家的損失」青野氏、初弁論で経営者の視点から問題提起

ソフトウェア企業「サイボウズ」の社長、青野慶久氏らが国を相手取り、選択的夫婦別姓を求めて訴えている裁判の第1回口頭弁論が4月16日、東京地裁(中吉徹郎裁判長)で開かれた。青野氏が意見陳述を行い、婚姻の際に妻の氏を夫婦の姓としたことから、旧姓の青野を通称名として使用しなければならず、「経営者として不利益を受け続けている」などと訴えた。また、夫婦が別姓を選べないことで国家的損失があると指摘した。

代理人を務める作花知志弁護士によると、日本人同士が離婚する時は民法上は旧姓に戻るが、戸籍法にもとづく届出を行えば、婚姻時の氏をそのまま称することが可能で、日本人と外国人が婚姻・離婚する時も、夫婦別姓が選べる。つまり、日本人同士が結婚する時だけ、「戸籍法上の氏」として選択肢がないのは、「法の不備」にあたるとしている。

今回の裁判で、原告側は戸籍法に夫婦が別姓を選べるよう規定を設けることを求めており、国は争う姿勢を示している。次回口頭弁論は6月11日に開かれる予定。

●「マイナンバーカードの旧姓併記に100億円の税金を支出しなければならない」

青野氏による意見陳述のポイントは以下の通り。

・サイボウズ社の契約を結ぶ時、必ず法務部に確認をして、通称名である「青野」か、婚姻の姓で署名すべきか区別した上で、契約書作成をする必要がある。このタイムラグが迅速な経済活動が求められる株式会社においてどれだけのロスになるかご理解いただきたい。

・パスポートと保険証との整合性をとるために、出張の際は飛行機やホテルの予約などは戸籍の氏で予約をしなければならず、日々無駄な活動が生じている。

・「青野」と婚姻の氏の併用を余儀なくされることで、人格が分離したような感覚を受け、精神的苦痛が大きい。

・国家にも不利益があると考える。総務省が発表した資料によると、「マイナンバーカード等に旧姓を併記できるようにする」ためのシステム改修に100億円の予算を取るとあった。戸籍法上の不備があるために、国民が税金として納付した公金を100億円も支出せざるを得なくなった事態は国家的損失としか表現できない。

・平成27年に行われた国会の審議では、政府が「世界中で夫婦同氏を義務付けている国は、日本以外に知らない」との答弁を行った。しかし、日本が批准している女子差別撤廃条約の条約機関から日本は3回、夫婦同氏を定めた法律の規定を改定すべきという勧告を受けている。サイボウズ社ではIT業界で国際的な活動を行っている。その姿勢は、日本だけでなく個々の日本企業への信頼をも損なう。

青野氏は以上のようなことから、「日本の社会を長く苦しめ続けた夫婦別姓問題を解決に導いていただきたい」とした。

●作花弁護士「戸籍法上の別姓は、これまでの法制度にも調和する」

口頭弁論後に東京・霞が関の司法記者クラブ開かれた会見で、青野氏は「私たちの主張は大変シンプルで、生まれ持った名前を法的に使い続けさせてくださいということだけです。それをしていただければ、救われる人がたくさんいる。そのひとつの変化すら生み出せない国になってしまったのか。関係者がみんなチームとなって、暮らしやすい日本を作るために大きな動きにしていければと思っています」と語った。

また、作花弁護士は、「民法と戸籍法はコインの表と裏。今までは、民法の別姓が言われてきましたが、戸籍法上の別姓を認める規定は立法技術としても早いし、今までの法律制度の中にも調和します。せっかく良い知恵ですので、東京地裁では、現実の法改正につながり、かつ、世界中で日本だけという夫婦になったら同じ姓にならないといけないという状態から脱却が実現するような判決を頂けるよう、全力で頑張りたい」と話した。

夫婦の姓については、民法750条で夫婦の別姓を認めず、同姓にすることを義務付けており、結婚に際して95%の女性が夫側の名字に変更している。そこで、「夫婦同姓」は女性差別にあたり、憲法違反だと訴える裁判が起こされたが、最高裁は2015年12月、「同姓は合憲」だとする判決を下している。

追記:取材時にあった株式名義変更に関する情報が訂正されたため、当該部分を削除いたしました。(2022年6月16日)

(弁護士ドットコムニュース)

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